実咲は朋代さんから 懐かしい人々の近況を聞き 中でも大輝と鈴ちゃんの

結婚が決まったと聞くと大きく歓声をあげた

大学進学で疎遠になった二人だったが 鈴ちゃんは勤務先で知り合った男性と

婚約までしたのに 何らかの理由で婚約を破棄し 要さんが喜んだと聞いていた

それが 何かと相談に乗っていた幼馴染みの大輝と結婚することになった



「要さん 大輝に鈴ちゃんを取られて 寂しくて拗ねてるんじゃないかな」

 

横から僕が口をはさむと そうらしいわよとの朋代さんの答えに 父が

憮然としていたのが少し可笑しかった

実咲さんの実家へはいつ帰るの 皆さん待ってらっしゃるでしょうと 

朋代さんが聞いたことで 父の表情が戻った



「明日帰ります」



職場の事故で右腕に後遺症が残り 不自由な腕を抱えながら仕事をしていた

お父さんは のちに自分の事務所を立ち上げて 弟があとを継いでいた

妹はすでに結婚して地元に住んでおり 先月二人目の子どもを出産した

ばかりだ

父が赤ちゃんを可愛がりすぎて 上の子がヤキモチを焼くみたいで 

妹も大変なんですと実咲の話が続いている

父や葉月にもそんな日が来るのだろうか

家族に囲まれて大事にされている義妹と葉月が重なり なんとか葉月の力に

なりたいとの思いが強くなった

玄関のドアが開く音がして すぐに朋代さんが出て行くと ほどなく聞き覚えの

ある声と 低い男の声が聞こえてきて 父は無言のまま立ち上がり書斎へと

消えていった 

父がいなくなったことで 張り詰めた空気は和んだが 玄関の気配に 

また新たな緊張が生まれていた

顔を出してくる……実咲にそう言って 玄関の男の顔を見るために立ち上がった

僕の足音に気がついたのか 俯いていた男の顔があげられ すぐに僕に

向かって一礼したところなど まぁ悪い印象ではなかった

その横に 彼に抱きかかえられるようにして葉月が立っていた

無茶をしちゃダメでしょう 体のことを考えなさいと朋代さんに小言を

言われている妹は 会わない間にすっかり大人の顔になっていた

ぽっちゃりとした頬が細くなり 母親譲りの意志の強そうな口元は

引き結ばれ かげりのある表情はドキリとするほどだった

泣いたであろう腫れぼったい目を隠しつつ ようやく僕の方を向いた



「お兄ちゃん 来てたんだ……」


「おまえが呼んだから来たんだろう 紹介してくれないか」


「はじめまして 二宮です 葉月さんとお付き合いさせていただいています」


「葉月の兄です」



自分から名乗ったこと 兄である僕の前で 

「葉月さんとお付き合いさせていただいています」 と

きちんとした挨拶をしたことなど 彼は礼儀をわきまえた男のようで

好感が持てたが コイツが葉月を……と思う気持ちもあり 笑顔を返すことは

出来なかった