「お兄ちゃんが行ってた学校に行きたいの 

東京にいたとき同じクラスで仲の良かった子も受験するの 

制服も可愛いし カバンもステキだから……」
 

「おまえ 制服に憧れて行くつもりなのか? 

そんな理由 面接で聞かれたらアウトだぞ」


「だって……」



だって……と言ったままうつむくと 手にしていた鉛筆を 指の間に挟んだり

掴んだりと落ち着かない



「ねぇ葉月ちゃん お兄ちゃんが通った学校だから行きたいのよね 

初めての学校って不安だもん 

でもお兄ちゃんが行ってたのならって 思ったんじゃないのかな?」



実咲の言葉に 葉月が小さな声で うん……と頷いた

僕はそんな理由を思いつきもしなかった



「同じ学校ならお兄ちゃんを知ってる先生もいるわよね 遠野君の妹さん? 

なんて言われたら嬉しいし 安心するものね」



うん……と また葉月は頷き 自分の気持ちをわかってくれたんだと言うように

実咲の顔を嬉しそうに見た

なんでわかったんだ と彼女の顔に聞くと 兄弟ってそんなものよ と

得意そうな声が返ってきた

葉月の顔をまじまじと見ると 少し照れたような表情をしながら話を始めた


前に住んでいた所には仲の良い友達もたくさんいるけれど 乱暴な子や

嫌な子との思い出があって帰りたくない

かといって新しい場所で公立中学に行くのは 小学校からの繋がりができている

ところに入り辛いので 受験して入る私立ならいいのではないか

僕と同じ中学なら 実咲が言ったように安心できるからと ぽつりぽつりと

言葉を並べていく


うつむきながら話す妹を見ながら この子らしいと思った

一人っ子はわがままだなんて言われるけれどそんなことはない 

一人っ子は常に大人の顔色を伺っているものだ

わがままを言いたくても それは無理だとわかればごり押しはしない

むしろ自分を押し込めて親の言う通りにしてしまうところがある


僕がそうだったように 葉月もそうなのだろう

学校であったトラブルも最低限だけ話をし 自分で解決できる部分は黙っていて

親に迷惑をかけない

行きたい学校があるといえば どうしてかと聞かれるのはわかっていたはずだ 

だから僕と同じところで制服に憧れてなんて そんな理由を用意したのだろう

不安があるからとは言い出せなかった葉月が 不憫で愛おしかった



「俺が勉強を見てやるよ 専属の家庭教師だ 

ちょっと厳しいが ついてこられるか?」


「えっ ホント? うん 頑張るから」


「じゃぁ私も手伝うわ 交代でやれば もっと効率が良いじゃない 

それに私 このあいだまで家庭教師のバイトしてたの 

私の方が情報を持ってるわよ」


「わぁ 嬉しい 良かったぁ ちょっと心配だったの」


「心配だったって 俺だけじゃ不安だってことか 失礼なヤツだな」


「違うよ そんなんじゃないもん」



葉月の頭を小突くと 遠慮のない手が僕を叩き返してきた

もういつもの妹の顔だった