「こないだアプリコットタルト食べるって言ってなかったか」

カウンターに並べられた手作りのケーキの前で難しい顔をして唸るしるふに海斗の呆れた声音がかかる

4か月ぶりくらいにお目にかかったけれど

その変わらない光景につい微笑む

この3年で二人は本当にお似合いのカップルになった

お互いのことを知り尽くしていて、とても信頼していて

とても大切にしている

口ではいろいろ文句も言うけれど、

その口調からただのじゃれ合いで、決して本気じゃないことが分かる

そしてお互いもそれをわかっている

二人を見ていると、昔の自分を思い出す

ちょっぴり甘くて、でも切ない想い出

彼と二人で始めたこのお店は、私たちの歩いてきた道そのものだ

彼が亡くなった後、一人で切り盛りしてきた

くじけそうになったこともやめたくなった頃もたくさんある

でも、今こうして、ここで二人の時間を過ごしてくれる人たちがいる

ここでその成長を見守ることができる

それだけで今までが報われるような気がする