奏くんは「ごめんごめん」と目尻をぬぐいながら、息を整えて作業を再開した。


「あ、俺さ、ひとつ気になってたんだけど……」


「何?」


「小島さんって、秋生まれなのに何で“ちはる”なの?」


突然下の名前を呼ばれてビックリする。


もー!いちいちドキドキしすぎだから、私!


「あー、よく言われるんだ、それ。
私、千の春じゃなくて、千の晴れって書いて“ちはる”なんだ」


「ああ。そっか」


「私が生まれたときスッゴい秋晴れで、お父さんがそうつけたんだって。
でもまぎらわしいよね~。ははは」


「いや、いいじゃん」


「え?」


「千の晴れで、千晴―――
すげぇ、いいと思う」


千晴―――


そう呼ばれて、かーっと頬が熱くなるのがわかった。


ヤバイ、顔赤いかも……


「そ、そりゃどーも」


全っ然かわいくない返事をする。