私は塀を伝って裏口まで行き、私専用の出入り口から中に入った。
声からして、家族全員揃っているらしい。
私は抜き足差し足でリビングに足を踏み入れた。
リビングを抜けると廊下になり、そこを横断すると和室に入る。
そこには私の生活用具が一通り揃っているのだ。
もちろん、今から有り付こうとしている餌も。
しかしリビングを抜けようというとき、不意に上から体を持ち上げられた。
もちろん気付いていたが、抵抗ができなかった、ということだ。
「もう、チャイコ!どこ行ってたのよ」
愛子さんだ。
私を抱き寄せると、羽交い締めにしながら腹を撫でてくる。
しょうがないんでゴロゴロと喉を鳴らしてみると、愛子さんはたまらん顔になって私をぎゅうと抱きしめた。
「相変わらず姉ちゃんはチャイコにメロメロだな」
私たちに対面している隆也さんは、呆れた様子で愛子さんを見た。
そうなのだ。愛子さんは私にヘンテコな名前をつけておきながら、家族で一番私を可愛がってくれているのだ。
それはいい。
むしろ、有り難い。
世間には住む場所も食べる物も可愛がってくれる飼い主もない恵まれない猫がたくさんいるのだ。
それから比べたら、私は幸せすぎる猫だろう。
私は愛子さんが大好きだ。