お隣の家のシャローナさんが、昨日やっと出産を迎えて、無事にお子さんを授かったそうだ。
その話題を持ってきたご近所のマロンさんは、自慢のヒゲを撫でつけながら面白そうに語った。
「ウチの桜ちゃんがね、聞いたんだって。夜中に産声が、わーわー揚がてたんだって。
あそこのご主人、小心者でしょ?あたふたそこら中を駆け回って、それは面白かったそうだよ」
ふふふ、と少女のように笑うマロンさんは、これでいてもう七年は生きているおばさんだ。
ここ二年ほどは体も怠く(見るからに重量も結構あるようだ)、代わり映えのない毎日に暇を持て余しているらしいので、こうして毎日話し相手になってあげている。
その中で、こんな噂話も流れ込んでくるのだ。
申し遅れたが、私は名前をチャイコという。
猫をやっている。
名前の由来は言うまでもなくチャイコフスキーだが、飼い主の愛子さんは特にクラシックに興味・関心を抱いているわけではなく、ただ学校で「チャイコフスキー」という響きが流行っていたころに私が産まれたという、投げやりな命名をしただけのことなのだ。
私にとってはとばっちり以外の何物でもない。