私、樫野くんにこんな最低なことしておいて、自分だけ、こんな好きな人に追いかけてもらうようなことして、いいの?
だめだよね。
分かってる。
だから、振りほどかなくちゃ…。
「離して…」
私は京佑くんの顔も見ないまま、そう言った。
泣いたせいで、いつもより、こもった声。
そんな自分が、情けなかった。
「……離したら、あいつのところに行くの?」
「……え?」
京佑くんの口から出た言葉が意外すぎて、私は思わず振り返った。
京佑くんは、眉を寄せて、何かを耐えているような顔をしていた。
「……そんな驚くってことは、図星?」
京佑くん…。
怒ってる……?
「ち、ちが…っん…!」
否定しようとした唇を、無理やり塞がれた。