「おいおい!!
今更、それは困るぞ。

君も知ってるだろ?
理子の父親は、ピンク・マーベルを起業する時に資金援助をしてくれた俺達の大学の先輩だ。

それに今は、私と君に次ぐ我が社の大株主
機嫌を損ねる訳にはいかない」

「分かってます。
でも星良は、このプロジェクトに掛けてるんです。
アイツの好きな様にやらせてやりたい…」


俺の言葉に社長は苦笑いを浮かべ
大きなため息を付く。


「仕事では私がハラハラするほど強引で冷酷なお前が
星良の事になると周りが見えなくなる。
困ったもんだな…」

「…すみません」

「確か…8年前もそうだったよな。
あんなに順調だったランジェリー部門の撤退を勝手に決めやがって

その後の事業が成功したから良かったものの
下手したら会社を潰すとこだったんだぞ」

「社長…その事はもう、勘弁して下さいよ」


痛い所をつかれ
苦笑するしかない俺


「で、星良の事はどうするつもりなんだ?
いつまでもこのままじゃ
星良が可哀そうだぞ」

「はあ…」

「離婚…する気はないのか?」


離婚…


「それは…まだ…」

「そうか…君達が結婚した時は
お似合いのカップルだと思っていたんだけどな…

まさかこんな形になるとは…
もう別居して10年になるだろ?

いい加減、ハッキリさせた方がいいぞ」

「…はい」


出来るモノなら、俺もそうしたい。
だが…


「モデルの件は、考えておくが
余り期待しないでくれよ。

なんせ、あの気分屋の先輩だ。
怒らせると面倒な事になる。

私も君も更迭…なんて事になりかねない」


やはり難しいか…


結局、俺はアイツに何もしてやれないんだな…


すまない…星良


社長室を後にし、専務室に向かって廊下を歩いていると
内ポケットの携帯が震えた。