メルヘンさんが、息を切らしながらご隠居の家の前に行くと、蹴飛ばして壊した玄関の扉は、すでに元通りになっていた。

玄関の前に立ち、玄関へと伸びた開けようとした手は途中で止まり、ノックしようと握った手も振り上げるだけにとどまった。

次にとる行動をためらったメルヘンさんは家の前に来ただけで少しだけ満足をしていたのだ。

息が整うにつれて、近く狭かった視界は大きくなり、家全体をぼんやりと眺めていた。

屋根の上に少しだけ欠けた月が浮かんでいる。

この月はやがて満月になるのだろうか。

それとも、どんどんと欠けていくのだろうか。

普段気にも掛けないようなそんなような事をぼんやりと思った。

緩い風に柳が揺れるのを背中で聞いた。