「せんせー来ないなー」
あたしが言葉を発する度に舞い上がる白い息。
現れてはすぐ消えていく息を見て思う。
「もう冬なんだね」
特に誰かに喋りかけているわけではなかった。
けど、なんだかすぐ近くにいる気がしたんだ。
あたしの近くで笑ってる気がしたんだ。
「冬は嫌いだよ」
夏も嫌いだよ。
春も秋も嫌いだよ。
あたしはどんな季節も嫌いだよ。
「オレも冬は嫌いだよ」
君の声が聞こえた気がした。
「あ、五十嵐くん」
君じゃなかった。
少し周りの温度が下がった気がした。
「どうしたの?こんな朝早く」
あたしがそう聞くと五十嵐くんは頬をぽりぽりと掻いた。
「オレ、夏に怪我しちゃって・・・レギュラー外されちゃったから、みんなより早く来て練習してるんだ」
レギュラーを取り戻すために。
そう笑った君の顔に、どこか懐かしさを感じた。