「雅さん、凱司さんを怖がらないでくださいね」
玄関まで見送りに出た雅は、首を傾けて曖昧に微笑んだ。
宇田川は、人差し指を雅の唇に触れない程度に近付けて、僅かに気まずそうに、目を覗き込む。
「…不器用なんです。乱暴で強引な振る舞いをするかと思いますが…怖い男じゃありません」
「あ…大丈夫、です。凱司さんも鷹野さんも…優しい、ですから」
ふわりと笑んだその顔に、宇田川も穏やかに微笑んで、姿勢を正した。
「時には私がお迎えに上がるかも知れません。この髭を覚えておいてくださいね」
「はい、お髭を」
決め台詞のように繰り返した宇田川に、雅がほのかに笑い、つと伸ばした指先が、髭に触れた。
「…雅、気に入ったからってすぐ触んな馬鹿」
リビングのドアに寄りかかったままの凱司が、呆れたように声をかけた。
「あ、ごめんなさい、つい」
慌てて指を引っ込めた雅と、不機嫌そうに腕を組む凱司とを見比べてから、生真面目に一礼した宇田川は。
ドアを出ると、静かに閉めた。