ゆっくりと気を落ち着かせて、リビングに顔を出せば。
いつもの雅の席には、紅茶が湯気をあげていた。
「雅さん、先ほどは失礼致しました」
仮にも女性の部屋を覗き見てしまって、と。
穏やかな笑顔で会釈をされれば、雅はただ曖昧に首を振ることしか出来なかった。
「いえ…こちらこそ、居ない振りをして…ごめんなさい」
小さくはにかんだ雅は、座っても良いのかと椅子に手を掛け、凱司に視線のみで尋ねた。
「改めまして…初めまして、私は凱司さんの守役とでも言いましょうか、宇田川章介と申します」
すっと立ち上がって堅そうな礼をした宇田川に、雅は目を泳がせて、眉を下げた。
「あ…須藤雅です、えっと、………家政婦?です?」
自分の立ち位置を示すとしたらそれしか思い当たらずに、雅は不安げに凱司を見たけれど。
凱司はあからさまに、そっぽを向いた。