「だって…だってだってっ」


真っ赤に染まった頬が。

恐怖ではなくただの照れだと判断した凱司は、奇妙な焦りを感じていた。



「雅っ!」

「いっ!」


ごんっ、と拳骨で頭を殴り、腕を引っ張り起こすと、アザラシのぬいぐるみごと、雅は起き上がった。



「……あ、こ…こんにちは?」

開け放したドアの、廊下を挟んだ向こうの壁に、雅の知らない男が、表情も固く立っていた。

慌てたように表情を改めて、にこりと微笑んだ宇田川に雅は状況も忘れて曖昧な笑顔を浮かべた。



「…すみません。まさかこういう状態だとは思いませんでしたので。ここは、あなたの部屋ですか?」


「…お借り、しております?」


つられた敬語のイントネーションの悪さに、凱司は全てを諦めた。


何一つ、誤魔化せやしない。

部屋に入って来ないのは当然としても、これは住まわせているのが確実にバレた。


残された道は、宇田川が間違っても本家に報告しないことを願う…いや、誓わせる、だけ。