雅は、大きなアザラシのぬいぐるみを抱いて。
ベッドの上で茫然と。
天井の一点を見つめ、波のように押し寄せる、胃の縮むような切なさをやり過ごそうとしていた。
ドアのノックに返事をする前に、開いても。
雅は、動かなかった。
動けなかった。
凱司を見ることが出来ない。
怖いような、恥ずかしいような緊張に、アザラシを抱きしめ直す。
「雅?」
「…ぃ」
ぎゅうっとぬいぐるみに顔を埋めた雅に、凱司は小さくため息をつくと部屋に踏み込んだ。
ベッドに腰掛け、ぬいぐるみを引っ張れば、雅の体も一緒に付いて浮いた。
「…もう、なんもしねぇよ」
「……」
小さく囁けば、視線だけを上げた雅と、目があう。
気まずいような沈黙が三秒も続くと雅は。
眉を下げて、ぼすっ、と、ぬいぐるみに再び顔を埋めてしまった。
「…ぬいぐるみを…離せっ」
「い…いや…です…っ!!」
必死に顔を埋める雅から、白いアザラシを引き剥がそうと躍起になった。
「宇田川にっ!会わせなきゃ、ならねぇんだよ!さっさと起きろ!なんも、しねぇっての!」