「……すれ違いませんでした。まだここにいますね? 出して下さい」
「出せ…ってお前……」
「私には凱司さんの交友を把握する義務があります。それに」
顔も知らない方を、守ることはできませんから。
と、真剣に諭す宇田川を。
なにか不吉なものを見ているような気分で見つめ、凱司は黙り込んだ。
「鷹野息吹は、職に就いていません。手持ちの現金が無くなるのも時間の問題でしょう」
そうなったら。
「以前と同じ事をしないとは、言い切れません。むしろ一樹さんの大切な方だと知れば、監禁する事だって考えられます」
わかってる。
わかってるから、鷹野は取り乱したし、俺は雅が無気力に身を投げ出さないよう、あんな事をしたわけで。
「鷹野が…可愛がってる奴に違いはねぇが……あんまり、ウチのことは話さないでくれ」
実家が極道なのは、薄々知っているだろうが、何も目の前に突き付ける必要は、ない。
ああ、面倒な事になった。
ライブしてぇなぁ、とぼやきながら。
凱司は左腕の爪痕を、撫でた。