時間どおりにインターホンを押した宇田川に、雅の焼いたパウンドケーキは出さなかった。

短めの黒い髪に、白髪が数本見え始めてはいるが、くたびれた様子を見たことがない。

あご髭だけを生やした面立ちは、50を間近に、優男と言っても良いくらいには、甘やかだ。



「今日は一樹さんはお勤めですか」

「ああ」


「そうですか…久しぶりにお会いできるかと思いました。あ、こちらが先日頼まれた、須藤雅という少女の両親についてです。母親は死亡しておりました」



凱司の淹れた熱いコーヒーに、いただきます、と黙礼をして口をつけた宇田川は、カウンターに置かれたオリヅルランに目をやった。


「あれは…凱司さんが?」


丸いフラスコに根を伸ばす、小さな植物。

雅が、大事に育てているもの。


「いや…鷹野だ」

渡されたプロファイリングをぺらりと眺めた。


「そうですか。…そうそう、鷹野息吹の、施設内での動向についてですが、カリキュラムには特に問題もなく真面目に取り組んでいた事に間違いないそうです」


伸びた背筋と、揚々の少ない宇田川の話し方は、どことなく冷たく、コミカルだと。

凱司はオリヅルランを見つめながら、思っていた。