「え…な、に………」
すぐ隣の椅子に座った凱司は、体の正面を雅に向けて、テーブルに右肘をついた。
「この距離は平気だな?」
不安そうな目をするも、雅は少し首を傾げて、意図の解らない凱司の目を見つめた。
「ここは?」
椅子ごと20cmほど近寄る。
凱司のテーブルへついた肘は、雅のノートの、上。
怪訝そうに、だが僅かに身を反らせた雅が、一瞬目を揺らすけれど。
引き寄せられるように、凱司を見上げた。
「…凱、司さん?」
「俺は、お前を抱かない」
左腕を、雅の右耳へ伸ばす。
「だから、平気なんだよな?」
そのまま距離を詰め、雅を正面から見据えた。
雅の体は目の前の凱司と、椅子の背もたれに挟まれ、いつの間にか身を反らすこともままならなくなっていた。
「…な、に………?」
雅の声が、震えた。