「…平気じゃねぇだろうが」


明らかに額に筋が浮かびそうな顔をしているけれど。

凱司は静かに低く、そう言った。


雅はシャープペンシルを指先で撫で転がし、苦し気に目を伏せる。


「平気です。お金ないし…狙う意味もない。例え…狙われたとしても、大丈夫。平気だから」


虚勢を張っている訳ではないのだろうが、必死に言い聞かせるように、繰り返す。


守って貰うことに…全然納得いきませんし、と。

微かに微笑む唇が、凱司にはひどく、卑屈に見えた。





「…納得、させてやろうか?」

「え?」


「どうしても、解んないんだろ?なんで自分が今、犯られたら駄目なのか。なんで俺や鷹野がそれを過剰に警戒するのか」




雅の心の表面に、卑屈と無気力とが、厚く被さっているのはわかっていた。

短期間でずいぶん薄くなったかと思っていたのに。


きっと、こいつなりの自己防衛なんだろうな、と思いつつも。



凱司は煙草を押し消し、雅の目を見据えたまま、ゆっくりと立ち上がった。