「………何が知りたい」
僅かに、期待感を浮かべた雅の目が、はっきりと輝いた。
初めて出会った頃には見られなかった意思のある目に、凱司は苦笑しながらも、安堵した。
「なんでこんなに英語できますか?」
そこからかよ! と内心突っ込むが、凱司はシャープペンシルを置いて、頬杖をついた。
「英語圏にも二年いたからな」
「えっ」
「小さい時はドイツにいた。で、イギリス住んで日本に来た」
「……小さい時なんて…あったんだ…」
小さく呟いた声を、聞き逃さなかった。
相変わらず突っ込み所が違う気がしてならなくて、凱司は口を開きかけて、閉じた。
「だから金髪?」
「… 母親がドイツ人なんだ」
「あ…お母さん居たんだ……」
「…お前………馬鹿だろう」
「じゃあ! じゃあ、仕事!」
小首を傾げるのは雅の癖なのか、ふわりと髪を揺らし、嬉しそうに笑う。
「決算書作ってた時しか仕事っぽくなかった…けど、何してますか?」
鷹野さんは美容師さんでしょ、昌也さんは経理士さんでしょ、佑二さんは弟さんでしょ、と指折り数える雅が、あれ?と動きを止めて、へなへなと突っ伏した。
「“弟”って職じゃないですね…」
「…ひとりで馬鹿ばっかり言ってんじゃねぇよ…佑二はまだ大学生だ」
くくく、と笑う凱司も、苛つきは消えたのか、悪くはなさそうな機嫌で、煙草に火をつけた。