紙に芯の滑る音だけが、しばらく続いた。
煙草の煙を吐き出しながら、ふと手を止めた凱司は、嫌がりながらも集中し出した雅の脳天を見つめて、ため息をついた。
「雅、頭上げろ。せっかく勉強してんのに頭に入らねぇぞ」
「ん…」
生返事だけれども、素直に背筋を伸ばす。
「お前、将来の夢が“幸せに死ぬ事”ってのは真面目に書いていいことなのか?」
「………え?…あ…はい、それでいいです。それが一番……って…凱司さん……それ…?」
雅が日本語で書いた作文を、凱司が英語に直す、という作業をしていたのだけれども。
いま初めて凱司の手元を見た雅は目を見開いて、申し訳なさそうに、項垂れた。
「……よ…読めません…っ」
ぴく、と凱司の眉が跳ね上がる。
「…………読めもしねぇ、書けもしねぇ……将来の夢は幸せに死ぬ事………」
ぐしゃり、とルーズリーフを握りつぶした凱司は、低く呟くと、拳を震わせた。
「お前はもう少し…必死に生きろ!!」