「…お前…英語…壊滅的だな」
ピタリ、とシャープペンシルの動きを止めて、恨みがましい目で見上げてきた雅には、やっぱり不安な色など見当たらなかった。
「…壊滅って程じゃ…」
「英作文なんだろ、それ」
唇を尖らせた反論を無視した形で、凱司はノートを手元に引き寄せた。
整髪料を付けないままの、凱司の金髪は、意外と柔らかい光を反射させる。
青のかかったような灰色の目は、一見したら酷く冷たいけれど、実は誰よりも優しい事を、雅も鷹野も、知っていた。
「ああ、駄目だな」
「えぇっ…」
「お前、勉強しろ。学校のワークかなんか、あんだろ」
雅の手から、蝶の模様の入ったシャープペンシルを取り上げて。
そばに重なったルーズリーフを一枚、引き寄せた。
「えぇ…あたし大学行かないから……勉強はしなくていいかなぁ…なんて」
「しろ」
じろり、と睨まれれば、ますます頬を膨らませて、雅は渋々、教科書の入ったバッグを探った。