「あ、の、息吹さんって人は、鷹野さんに似てる…の?」


引き寄せられた距離のまま、凱司の膝に手を置く。

手に、グラスの水滴が残っていたのか、雅の額が僅かに濡れた。



「鷹野の……兄貴だ」

「…お兄さん…?」


青みがかった濃い灰色の目が、真っ直ぐに雅を見つめて。

髪に埋まっていた手が、頬を滑り、包み込む。

その、不思議なほどに甘やかな指の動きに、雅はひどく戸惑った。



“息吹”という人は、一体どんな人なのだろう。

きっと、絶対に関わってはいけない人に違いない。


凱司の、珍しく真っ直ぐな甘さに、雅は不安な確信を抱いた。


「なんで…拘束しなかったんだよ」


不機嫌を思い切り視線に込めた鷹野は、凱司を睨み付ける。


「…ウチのモンからすりゃ、金は納めてるんだ、拉致る理由がないだろ」


「雅ちゃんに何かあってからじゃ遅いだろ!金納めてんのもあいつじゃない、俺だ!!」



聞いたことのない鷹野の怒声に、雅はぎゅ、と目を瞑り、身をすくめた。


なんでこんなに警戒されているのか、解らないままの雅には。


ただただ、怖いばかりで。



「………っ…あたし、家でないから…っ!」


涙を含んだ、切羽詰まった声に、鷹野は我に返って、気まずそうに沈黙した。



「誰だか…解んないけど……誰とも会わないように…するから……だから……」

怒らないで…!


そう、呟いた雅の髪を。

鷹野はばつが悪そうに、そっと、撫でた。