「さっき、ウチのモンから、奴に会ったと…連絡があった」
「あいつ、九州に居るん…だろ?」
「でも、いる。相変わらず荒んだ顔してたらしいが…“姫に礼を言っといてくれ”と俺に言付けてきた」
姫と言うからには…こいつだろ?
黙り込んだ鷹野を見つめ、雅は唇を噛む。
何かマズい人を道案内したのだろうか、と、不安の滲んだ顔で、体を強張らせた。
「雅」
「…ぃ」
返事をしたのだろうが、声にならなかった。
雅は得体の知れない不安に、再び目を潤ませる。
「お前、当分独り歩き禁止な」
「…え?……でも、いつまで?学校、始まる…んだけど…」
「俺が送り迎えする」
「…えええっ!?」
きっぱり言い切った凱司を、止めるでもなく黙っている鷹野に目をやれば。
冗談でもなんでもなく、真剣な話なんだと、窺えた。
凱司の手が、再び雅の髪に触れた。
額の生え際から指を差し入れ、軽く引き寄せる。
「悪いな」
覗き込むような視線が、妙に優しい気がして、雅は思わず息を呑んだ。