「赤城さんが、私に好意を
持ってくださることは
大変嬉しい事ですが、
私にも選ぶ権利はあります。
一人の人間ですから・・・
と言うことで、いくら、
あなたに好意を寄せられても、
私があなたに向くことはない」
・・・
オレの言葉に、
曇った表情になった玲子。
・・・
「先生の為に、
手術したのに・・・」
「・・・」
「先生はこの胸は嫌いですか?」
オレはため息を一つ・・・
「赤城さん。
私がいつ
大きな胸が好きだと言いましたか?」
「・・・それは」
「この仕事をしてて思うんです。
私はありのままの、
飾り気のない女性を、
愛してやりたいと・・・
綺麗になる努力をするのはいいことです。
あなたにふさわしい人を、
探してください」
・・・
涙目になった玲子は、
黙ったまま、
病院の中に入っていった。
・・・
もう一つ溜息をついたオレは、
千波の方を見た。
「すみません。
変な事に、巻き込んでしまって」
・・・
オレが謝ると、
千波は苦笑いをして、
首を振った。
・・・
「いいんです・・・
敦紀先生も、色々と大変ですね。
そんなカッコいい顔をしてるから、
女がほっときませんね」
「そんなことないですよ・・・
自分で、自分がカッコいいなんて、
これっぽっちも考えたことないですし」
「ふふ、それだから、
もっと、
先生がカッコ良く見えるんですよ。
それより、
さっきの言葉、
私が聞いても、
先生に惚れちゃいそうでした」
「・・・え?」
・・・
そう言った千波の顔は、
ほんのり赤くなっていた。
「それじゃあ、
私はこれで・・・」
「千波ちゃ・・」
・・・
行ってしまった。
・・・
どこの言葉で、
そんなことを思ったんだろう?
・・・
自分ではピンとこない。
・・・
でも、
千波が、
オレに本気で惚れてくれたら、
これ以上の幸せはないのに・・・
・・・・?!
自分の心の変化に
驚きを隠せない自分がいた・・・
・・・
敦紀さんに呼ばれたけど、
聞こえてないふりをして、
その場を後にした私。
・・・
こんな事があっていいのか?
・・・
私、さっきなんて言った?
・・・
惚れちゃいそうでした??
・・・
なんてことを口走ってしまったの?
惚れるなんてこと、あっちゃいけない。
・・・
私は二度と恋なんてしないと
決めたんだから。
・・・
このコンプレックスの為に、
恋は諦めた。
・・・
いや、
ただ、
恋をするのが怖いだけ。
・・・
もう傷つきたくないから・・・
こんな私を、
好きだと言ってくれるのは、
幼なじみに秀明くらいよ。
・・・
でも、その秀明でも、
私のこの胸を見たら、
失望してしまうかもしれない。
・・・
自分の体を見られるのが、
これほどまで
怖くなってしまうとは・・・
・・・
俯いたまま、
家に帰った私は、
玄関に立つ人影に、
足を止めてしまった。
・・・
「おかえり」
「・・・」
「どうした、そんな暗い顔をして?」
・・・
そう言ったのは、
そう、
秀明だった。
「ただいま・・・
なんでもないよ?」
そう言って笑って見せた。
秀明は黙って、
私の前まで歩み出ると、
そのまま私を胸の中に、
スポッと包み込んでしまった。
「秀明?」
・・・
「バカだな。
何年付き合ってると思ってんだよ?
お前のウソくらい、お見通し」
「・・・」
・・・
秀明にウソは通用しないみたい。
・・・
「どうやったら笑顔に戻るんだ?」
「・・・」
「それとも泣きまくって、
モヤモヤを吹き飛ばす?」
「…バカ」
「千波の為なら、
オレはなんだってするんだよ。
ここから飛び降りろと言われれば、
飛び降りてやる」
「…じゃあ飛び降りて」
・・・・?!
「ワッちょっと!バカ」
本当に飛び降りようとした秀明を、
私は慌てて止めに入った。
・・・
「何だってするって言っただろ?」
「ホント、バカ!
死んだら何もならないじゃない?!」
「お?怒った」
「何だって?!
怒るわよ、そりゃあ!」
息を切らせながら、
怒り続ける私に、
秀明は笑い出した。
「本気で怒ってるのに、
何で笑ってるのよ?」
「イヤ、
いつもの千波に戻ったと思って」
「・・・・え?」
ビッ!!
驚く私の顔を、
今度は両手で引っ張った。
「ほら、笑って?」
「ィヒャクて、わりゃえにゃい」
ブッ!
秀明が、
私の言葉がおかしかったのか、
吹き出した。
・・・
そのおかげで、
引っ張っていた手が離れた。
「か、可愛い、千波」
「もう・・・プッ」
・・・
私もなんだか可笑しくなってきて、
吹き出した。
「やっと笑った」
「秀明があんまりバカだから」
「何とでも言え、
千波が笑えるなら、なんだってするんだよ」
「秀明」
「ん~?」
「ありがと」
「あら?しおらしくなった」
「バカ英」
「ところで、何で千波は、
今日は休みなんだ?」
「ちょっと、友達に頼まれて、
付き添いで有給を取ったの。
そっちこそ、平日に休んで、
仮病がばれたら、お父さんに
クビにさせられるわよ?」
・・・
ちょっと、脅してみた。
「バカ言え!
今日は、先々週の日曜の代休だ」
「・・・な~んだ。
つまんない」
「どうせ、暇だろ?」
「どうせってなによ、どうせって?」
「遊びに行こう?
今日はテーマパークも、
がら空きだ」
「フフ、ホントだね」
・・・ということで、
急きょ決まった、デート?
これって、
デートのうちなのかな?