極め付けは廊下。
すれ違う瞬間、彼女はスッと一歩俊から遠ざかる。
ほんのちょっとの距離。
はたから見たら対した事のない出来事。
「な、ん…っ」
なんなんだよ!
俊はとうとう千葉というクラスメイトが嫌いになってしまった。
なんなんだ、一体俺が何をした。
眉間にシワを寄せながら俊は背中に意識を集中させる。
カリカリと勤勉にペンを滑らせる音が、俊をじわじわと苦しめた。
…
「ふーん、気にしなきゃ良いのに。」
「まぁ、そうなんだけどな。」
工藤がコンクリート製の水飲み場に腰をかける。
部活動後、たまたま出会った彼に、なんとなく千葉の事を打ち明けた。
あっさりと正論で返す工藤に、俊は腑に落ちない返事をする。
「だってさー、なんか言われたわけでも、されたわけでも、ガン飛ばされたわけでもないんだろ?ただの人見知りなんじゃね?千葉って大人しそうだし。」
「そうだよな、そうなんだけどなー…。」
一人項垂れる男前に、工藤はふーん、と首をかしげてポツリと言った。
「…お前、傷付いてんだな。」