澄香はごそごそと自分のカバンを漁り、中から少しよれた小さなプレゼントを取り出した。

「…。」

「…、クッキーは賞味期限があるから食べちゃったけど、こっちは腐らないものだったから…。」

本当はクッキーと一緒に渡そうと…、渡せたらいいなぁと思っていたプレゼント。

両手に持って、澄香は滝井くんの前におずおずと突き出す。

「お、“誕生日おめでとうございます。”」

「…“ありがとうございます。”」

滝井くんも嬉しそうに両手で手のひらサイズのプレゼントを受け取った。

「開けて良い?」

「ど、どうぞ。」

中身は、軟式野球部のユニフォームと同じ色のリストバンドで。

腕につけたそれを、

あんまり幸せそうに滝井くんが見つめるもんだから。






「好きです。」


澄香は唐突に告白してしまった。

不意を突かれたように目を見張った滝井くんは、その後、ぐっと何か堪えられないものを我慢するように口を自らの手で覆う。

彼の頬と耳が、かァァッと赤くなるのを、澄香はただびっくりして見つめた。


次の瞬間、澄香は身体を硬直させる。

彼が、抑えきれなかったようにギュッと澄香を強く抱きしめたからだった。







わわ…っ!


彼の、土と汗が混じったような男らしい匂いと。

布越しに感じる強い筋肉と。

幸せに満ちた息を吐く微かな振動が、全力で澄香の心臓を止めにかかって来ていた。


「…やっと、貰えた。」


滝井くんは澄香の肩に顔をうずめてそう呟く。



「ずっと、ずっと、…欲しかったんだ。」


それは澄香の言葉なのか、澄香自身の事なのか。

彼女にはこんな状況下でそんな事、質問出来るわけなかった。




【Fin】