「でも、ダメだな、と思った。それじゃダメだ。俺、本当に何もしてない。」
あまりに真っ直ぐ頭の中にその真剣な声が響くから、澄香は滝井くんを見つめ返し、ただ黙る事しか出来なかった。
「そんな風に思っていた矢先だった。昨日、千葉が歌ってただろ?“過ぎた過去を後悔するなら、今すぐにでも前に進め”って」
「え?」
澄香は英語が苦手で。
だからいつも先生の趣味に偏った練習符には、英語が苦手な澄香の為に、フリガナがふってある。(どうしても読めませんって泣きついたら、仕方なしにそれからふってくれるようになった。)
意味は聞けばのほほんと教えてくれるけど、昨日は新しく貰ったばかりの楽譜だったから…。
ほとんど音程確認だけのようなたどたどしい歌だったのに。
「…すごいね。聞いただけで…。」
リスニングで意味まで理解するなんて。
「俺、英語9だから。」
おどけたように滝井くんがいう。
「でも歴史は赤点。」
「あはは、私逆だー。」
「あ、やっと笑った。」
笑顔の澄香がびっくりしたように滝井くんを見上げると、彼は嬉しそうにニコッと微笑んだ。