大きくて、ゴツゴツした手。
マメが何度も潰れて皮膚が所々堅くなっている。
本当に一生懸命野球をしてる人の手だなぁと、どこか他人事のように思いながら、引き寄せられるように澄香は滝井くんについて行った。
制服姿に大きなカバンを肩に掛けた、背の高い男の子。
その隣を歩いてるのがまさか自分だなんて、2日前に想像出来ただろうか。
学校を出て夕焼けの中、人通りの少ない川沿いの道を二人で歩く。
初めに口を開いたのは滝井くんだった。
「今日は、歌、聞こえなかったから。」
ふと視線がこちらに向いて。
「また逃げられたかと思って慌てて走った。」
彼は目を細めて情けなさそうに、でも嬉しそうに笑う。
「すみません、もう逃げません…。」
澄香は昨日の絶叫猛ダッシュを思い出し、顔から湯気を出しながら下を向いた。
ハハッっと笑い続ける滝井くんが、また高い空を見上げる。