…こちらから女の子の顔は見えないけれど、いつもの難しい顔をした滝井君のポーカーフェイスだけは見えた。

風に揺られたスカーフの色で、あの女の子は一年生かぁとかぼんやり考えたり。

泣きそうな背中に、…自分を重ねてみたり。

「勇気あるなぁ。」

ひょこっと澄香の隣に並びながら胡桃が他人事よろしくつぶやいた。

「うん。…すごいね。」

片思い一年、と、1ヶ月。

澄香は尊敬の気持ちと、焦りとで複雑な表情をした。

我が校は硬式野球部が甲子園の常連で。

軟式野球部はその隣でひっそりと練習している。

与えられているグラウンドの広さも3倍近く違うし、ファンも圧倒的に硬式野球部の方が多い。

それでもこうして軟式野球部にもフェンス越しにファンが集まるのは。

「やっぱ顔かな。」

呆れたようにもらす胡桃に澄香がすかさず突っ込んだ。

「顔だけじゃないって。」

「はいはい。」


「おーい!自主練終わりーー。集まって合わせるよー。」

緩い顧問の先生の緩い声が第二音楽室に響いた。

はーい、とパラパラ集まり出す部員に混じって澄香も列に身を置く。