「黒龍<コクリュウ>が何の用だ?」

低い声で光が喋る。
はじめて聞く、怖い声――

でも、そんな事も気にならない。



『黒龍―――』



「鈴。一緒に来い」

「喧嘩売ってんのか?」

「………鈴。何でお前は紅燕に居る?何で、また暴走族に関わる?」


カズが目を細めて問う。

………また?


「どう……ゆう…事………?」

「………鈴?」

カズの顔が曇った


「鈴!こいつ等に構うな」

肩口から覗いていた私を光がまた遮った

睨みつける光
考え込むカズ

何がどうなってるのか――


沈黙を破ったのはカズだった。

光に隠された私を覗き込んで


「鈴。今は俺が黒龍総長だ」

「…黒龍…総長………カズ、が」



何だろう?この感じは……

ただ繰り返しただけ。
ただ言葉にしただけ。


―――――怖い


バラバラだった感情が、心がやっと動いた。
突然襲いくる恐怖心

震えているのが自分でも分かった


「鈴………」








カズ達が去って行っても震えは止まらない。

そして。
届いた声も消えてはくれない


「記憶が―――」


side*光




脅え震える続ける鈴

黒龍と何かあったのは明白だ。

だけど話せる状態じゃ無い…



紅燕のアジト

いつもの溜まり部屋に居るのは俺と鈴だけ。
青蛇の件で動いてる今日、下の奴らもほとんど居なかった


珍しく静かな倉庫――
人が少なくて良かったのかもしれない




自分の両腕をきつく抱き締め、震え続ける鈴



そんな姿は女だと思えた。

俺の知るうざい女ではなく、守りたくなるような…そんな女に

蓮司が連れて来た女―――鈴に、俺は最初っから嫌悪の目を向けた。


女は嫌いだ

香水臭い匂い
化粧だらけの顔
喚き散らすあの口
甲高くて耳障りな声
そして、
触ろうと伸びてくるあの尖った爪

五感全てが醜いと感じ取る存在

だけど、鈴はそんな女共と違った。



俺の目に気付いて近付いて来ねぇ。

でもビクビクとオドオドとしてる訳でもねぇ

蓮司にも物怖じしない。


主張してこねぇ強い目―――そんな印象だ。



あぁ、翔太も気に入ってたな。この女を





青蛇の件で蓮司が動いた時、何で俺が留守番なんだと不満だった。

更には女の迎えまで……

面倒い。
喧嘩なら俺を連れてけっつ~の。





でも。
話したら違ったんだ。
変わったのは俺の考えで――

気が合う。
女なのに、だ。

こんな女なら悪くない…








でも。気がいくら合っても鈴は女で…

こんな時、どうすりゃ良いのか全く分からなかった

隣あったソファーで鈴の肩に手を置き、ただただ黙ってた。

震えがだいぶ落ち着いた頃、静かに扉が開いて蓮司達が帰ってきた。




…………ん?


窓の外を見る。
まだまだ明るい……

そんなに時間は経ってねぇよな。



「どうしたんだよ」

翔太はさっさと座りパソコンを開いた。

皆ピリピリしてやがる。良い報告じゃねぇな。


「龍が出た。んで蛇が消えた」

鈴の肩がピクッ震えた。


「あの一帯にはもう居ねえ。また潜ったか………龍が隠してるか、だ」




鈴を見る。俯いて顔は見えねえが、震えは止まってる。

肩に置いてる手に少しだけ力を込める。


「黒龍……今日鈴んとこ来たぜ」




―――side*光。END


「黒龍……今日鈴んとこ来たぜ」


光が喋った言葉に皆がこっちを見たのが分かる。


大丈夫――

そう言うかの様に肩に置かれた手が温かく感じる



「鈴」

ずっと不機嫌オーラを出してた蓮司の声はもの凄く低い。


でも、何も話せる事は無い。
事情なら私が聞きたいぐらいだ




「………私、裏切ってないよ?」




「鈴ちゃんを疑ってる訳じゃないよ。黒龍とどんな関係なの?」

クスクス笑いながら言う翔太


『黒龍との関係は――』

「妹尾和也<セノオカズヤ>と幼なじみなの」

総長と聞いた今日の情報

でも何故か呼びたくない。


違う気がした

カズは違う。
だって黒龍の総長は……




「幼なじみかぁ」

翔太の声にハッとした。


「カズと喧嘩するの?」

慌てて訊くと、小さな舌打ちが聞こえた。
そっちを見ると蓮司だ


蓮司を暫く見てみるが、返事はくれない。
ゆっくりと顔を動かして皆を見るけども、やっぱり誰も返事はくれない


「心配?黒龍とは直ぐに喧嘩にはならないよ」

やっぱり話してくれるのは翔太だ

「紅燕と黒龍は同盟こそ結んでないけど……初代が決めた決まりがある。喧嘩の前に話し合いだね」


良かった。

やっぱ知った人と喧嘩する。なんて言われたら嫌だしね

それが暴走族の話だ、と……



「あ!ごめん。私が口出しする話じゃ無かった、よね…」

余計な事訊いちゃった。
語尾がどんどん小さくなってしまう


「大丈夫だよ。でも、とりあえず鈴ちゃんは――」

「黒龍に近付くな。翔太。今日の件何か分かったか?」


私の返事を聞かずに話は進んでる





黒龍かぁ~……

総長。カズ…
―――足りない『記憶』って何?