「――あ!私別れたって言っちゃった」


「はぁ?誰にだよ」

「………黒龍で」

黒龍に行くのに燕姫では居られない。

黒龍に行くために別れたんだし、蓮司達を巻き込まない為に別れた。

………つもりだった。


「またあいつ等かよ」

「だって」

「もう良い。黙れ――」

蓮司って、言葉と行動が合ってないよね?


黙れ。
なんて言ったのに、もう喋れないよ。


深く、激しいキス

「あ……ぅ、れん……」


苦しい程奥まで入ってくる

息が持たない。
そう伝えたいのに、頭も身体も動いてはくれなくて


やっと。

そう思える程続いたキスが終わった時にはもう体中の力が抜けていて、感覚はふわふわとしてて…

いつの間にかベッドに倒されていた

真上から、鼻先から見つめる蓮司の整った顔にドキドキが止まらない




「ぁ、……蓮司」

「大丈夫だから」

大丈夫。そう暗示のように繰り返し、私の首もとに顔を埋める。


吐息が、熱が、舌が―――

首に訪れる感覚全てに反応してしまう


「あ、蓮司!」

「………怖いか?」

気付いたら服のボタンは上の方から外されていた。


そ、そうだよね…
首にあれだけ触れてたんだもん。

ふ、不自然な所まで触れてたもんね


「今日はしねぇよ。怖がる事は……もうしねぇから」

真っ直ぐ目を見て――見つめて話す蓮司に、ドクンと胸が高鳴った。


「あ、えっと違くて…。………痣が。全然、消えてないの…」

殴られた痣、蹴られた痣が今も体中に残って居る。

今は変色して赤に紫に黄色に青と、私の肌に綺麗に浮かび上がってきていて



「大丈夫だから」

また一つ、ボタンが外された。



大丈夫。

蓮司は怖くない。

だって私は蓮司が――




「―――鈴。お前が好きだ」


その言葉と共に。
大好きな人が愛しいキスをくれた。


目を覚ますと蓮司が居た。

そんな朝を迎えたのは何回目だろうか


腰に回された手に穏やかな寝顔

「綺麗だよね」

起こさない様に観察してしまう。



今は閉じられてる鋭く強い瞳も。

スッと通った鼻筋も。

色の薄い、その唇も。

全てが悔しい程に綺麗で――

思わず触れてしまった顔に、目に映ったピアス


私が誕生日に渡したもの。

毎日付けてくれてる事を私は知ってる。

蓮司の髪と同色のそれは、沢山のピアスに混じってても強く有り続ける…


蓮司自身の様な―――




鮮やかな『赤』

赤ではなく、真紅でもなく臙脂でもない。
もっと―――

そう、燃えるような赤色




「―――紅蓮<グレン>」



そう!紅蓮だ!


すっきりした答えに、もう一度手を伸ばす。

綺麗な赤髪、ピアス、そして顔に


「好きだなぁ」

好き。…大好き

この気持ちをどうしたらいいんだろう。
この思いを何て表すんだろうか。




しかし、良く寝てる…

もしかして昨日お酒でも飲んだのかな?

あ、そしたらバイクには乗れないか…


これだけ見てても、触ってもまだ起きる様子の全く無い蓮司


「9時過ぎ……か」

私も良く寝てた。

昨日泣いたせいか、慣れない乗り物のせいか、安心感からか…

こんな時間まで寝たのは久々だ。


でも、そろそろ起きたい。

ホテルって、朝に出なきゃいけないんじゃないっけ?

そっと、蓮司の腕をどけてベッドを降りた――



「ゎわわ」

――ところでバランスを崩した。

変な体制で動いた事もだけど…


「勝手に行くな」

腕を引っ張られて、そのままベッドにまた倒れてしまった。

掴まれた腕はいつものあの力で、せっかく外したのに、また腰に腕が巻き付いてて


「どこ行く気だよ」

少し掠れたその声は眠気を含んでる。

寝起きの蓮司って機嫌悪いんだ…


「どこも行かないよ。起きただけ。おはよう蓮司」

「…………ああ」





「ぁ、あの~~蓮司?」

「ああ」

「えっと…腕、外して?」

「ああ」





………う~んと。



起きてくれた蓮司にホッとしたのは確か。
でも。
起きただけで動かない。

更には動かしてくれない。


私に回された腕をそのままに、空いた片手で器用に煙草を吸い始めた。

それが様になってる事は置いといて

……どうしよっか。



そういえば、朝は一服必要だって聞いた事あったな。

言ったのは誰だっけ…

寝起きだからやっぱりタツ?

でもそんな知識教え込まないし、じゃあ……



「先にすりゃ良かったな」

「え、何を?」

蓮司の煙草は既に短く、灰皿で潰されてるところだった


朝の一服で完全に目覚めたらしい。

煙草を離した手が私を引っ張った


「え?ちょっ――」

何度目のキスだろう。

触れるだけの、優しいキス



初めて煙草の味がした。

「苦っ」


うん、苦い。

煙草ってこんなに苦いの?
美味いとか不味いとか聞いたことあったけど、苦い


「やっぱ先にすりゃ良かったな」


舌を出して苦がる私に、蓮司が笑う。

でも、そんな台詞を言っても止める気だけは無いらしい。
また唇を奪われ、今度は舌が入ってくる


「ちょっ、……蓮司…止めて」


動きたいのに。

うん、行動したいのに蓮司の腕は強く、されるがままで―――



ブー―ブー―ブー―


「………」

「………」


鳴り続けてるから電話だろう。

私のは……鞄の中だよね。

鞄を置いた部屋の奥に在る椅子をチラッと盗み見た。


鳴ってるのは間近でベッドにも振動が伝わる場所


「出ないの?」


なのに全く出る気が無い

相手を見たのか見てないのか、一瞥したきり無視してる。


電話は一度切れ、また直ぐにかかってきてて…
よほどの急用だと思えるんだけど…


蓮司もそう思ったのか、やっと携帯を手に取った


「問題起こすなつっただろ」


……え?そんな事言ってたの?


紅燕様
総長様
蓮司様が怖いよ―――