タツは、私の腕に気付いてなかった。

だから黒龍へ戻って行った。

今なら分かるのに。
あの時はただ悲しくて、寂しくて――

タツに見捨てられたって、そんな気持ちすらあった。





「私はその日からずっとこの傷を隠してるの。いつもしてるテープで。何年も……何年も」

何年ぶりだろう。
このテープをずっと外してるなんて



「カズと約束したの。この傷を、誰にも話さないって……2人だけの秘密にした」

つたなく隠し続ける私にタツは何も訊いては来なかった。



「タツとも気まずくなって私は……私だけ叔母さんの元に引き取られた」

遠く離れたのに、直ぐにまた此方に帰ってきたてしまった。


「それから黒龍とも、タツとも、カズとも関わり無くて……」

忘れたくない大切な思い出なのに


「何でだろう。記憶からどんどん薄れていった」




「「「「「………」」」」」



「これが、今まで話せなかった事」



ずっと静かに聞いてくれた皆を見回し、笑いながら言う。


特に蓮司の表情からは何も読み取れない








でも、話は終わりじゃない。


「蓮司……前に言ってくれたよね。私が青蛇側の人間だったら、関係を断ち切らせるって。守ってくれるって」

凄く嬉しかった。


でも―――



「私は黒龍と――タツとも、カズとも関係を断つ気は無いの」

私は黒龍側の人間になる?

私は紅燕の敵になる?


紅燕から離れなきゃいけない――?



それでも、もう離れたくない。

兄妹に戻れたこの関係――
大切な幼なじみ――


「私は…もう此処には「んで?」

「……え?」

「で、お前はどうなんだ?」

………私?
意味が分からない。


いつの間にか止まった涙。
クリアになった視界で蓮司と目を合わせるが、真意は分からないまま



「お前の意見だよ」

はぁ~。
と長いため息をつき、ほんの少しだけ補足してくれた。



「お前はどうしたいんだよ」


「…………居たい。私は此処に居たいよ。此処が好きで、皆が大好きで。でも…蓮司は総長でしょ。紅燕を一番に考えたら………私は此処に居ちゃいけない」


私を傍に置くという事は、紅燕にも黒龍にもリスクがある。


私はどちらの内情も知っているから…











「黒龍はそんな族じゃない」










………………え?



「自分で言った台詞だろ」




そう。私が言った台詞

黒龍を悪く言って欲しくなかった。
その感情だけで口から出たのはつい数ヶ月前

でも、今は言ってない。



口にしたのは蓮司




「お前は此処に居ろ。俺の傍に――――燕姫として」


真っ直ぐ、私を見たままで



止まった涙がまた溢れてくる


「うん」

絞り出した声はやっぱり鼻声で…

こんな時に情けない







「んじゃ、鈴もめでたく戻って来た事だし、下の奴等巻き込んでパァーっとやろうぜ」


そう言うや否や…
さっさと席を立ち、扉を出ていってしまった光

そんなに急ぐ事なのかな?

何か焦ってる様な…



「女の涙ぐらい慣れろよな~。俺も手伝って来んわ」

いつもの間延びした声で、祐も続いた。



「私、こんな顔で出れないのに」


マスカラはさっき落としたから、パンダ目は大丈夫だと思う

…てか信じたい。

でも絶対に酷い顔だろう




「もう決まりみたいだし……鈴ちゃんは蓮司と一緒に一旦家に戻ったら?」

「蓮司と?」

「そ。蓮司居なきゃ始まんないし、良い足止めになるからさっ」

「……行くぞ」


良いのかな?
何て考える隙は無かった


いつものように腕を掴まれ引っ張られ

車で辿り着いたいつものアパート


朝見たばっかりなのに。

久々に感じるのは、多分今日が色んな事が有りすぎたせい



「…………行ってこいよ」

「あ、ごめん。直ぐ戻って来るから」

見上げたまま固まってたらしい。

早く行け。と言われんばかりの目で促された。

とにかく、急がなきゃ



今回は濡れた服の洗濯なんて暇は無い。
仕方ないから袋から出すだけ

着替えて持ち物チェック


それから…
また左腕にテープを貼った。

やっぱり無いと怖いし不安になる。

「少しずつでも、向き合えたら良いな…」


蓮司達に話すことが出来た。見せる事が出来た。

とりあえずは一歩前進できたはず


「蓮司ごめん。お待たせ……どうかしたの?」

車に戻った時、蓮司は運転手の兄さんと話してたみたいで驚かしてしまった。


…何か、揉めてた?



「何でも無ぇよ。早く乗れ」

「クスクス、蓮司さん態度冷たいですよ。鈴さん車動かしますね」

「あ、宜しくお願いします」




車内では蓮司がずっと外を見てて

そんな態度をミラー越しで見て笑う運転手の兄さん




元々距離もあまり無い為、無事に倉庫前に車は止まった


窓の外、暗闇を見てる蓮司がキレそうで怖かった



「先に行っとけ」


先にって…扉までは後数歩

声も灯りも漏れているこの場所

私に声をかけた後、携帯片手に離れていく蓮司に、仕方なく1人で中に入った


「鈴おっかえり~」

中は当然騒がしかった。

どうやって用意したのか、沢山の机に沢山の料理。
そしてそれに見合う人の数



そんな光景を見て固まった私を直ぐに見つけたのは祐で、私を近くに呼んでくれた


蓮司が居なきゃ始まらない。
という翔太の言葉には、祐以外はという続きがあったんだろう。

1人だけ唐揚げ山盛りの皿を持っていた



「鈴ちゃんおかえり。蓮司は?」

「ただいま。外で電話してるよ」

翔太も見て見ぬ振り…という事は毎回なのかな


「鈴も食うか~」

「……後で貰うね。ちょっと鞄置いてくる」


箸を近付ける祐を適当にあしらい、とりあえず2階へ