―――私が、何なのかを。




「つまり、それまでは話せない。紅燕に来る気も無いし、俺達に会う気も無い」

「うん…」

「………はぁ。蓮司がまた暴れなきゃ良いけど」

「え?」

「何でも無い。……それで、それはいつ終わるの?」

「分かんない。早ければ明日、遅ければ……一生かも」


約束を破るのは簡単だ。

でも、それが出来ないのは偽善か、罪の意識か……





今日はカズに仲介して貰っただけ。

住所と連絡先。
そして、明日会う約束


カズと話をするのはその後



「ずっとは困るな~。それが終わったら……か」


再び肩を並べて歩く夜道。

今度は家へと――



「鈴ちゃん、顔付き変わったよね」

「え?」

「いつからだろう。……何か強くなった」

「そうかなぁ。……でも、そうだと良いな。強くなりたいの」


黒龍に、カズに、タツに。
ずっと守られてて…

それを、明日変えるんだ。








「じゃあ、俺は帰るけど……一応周りには注意しといて。馬鹿な輩がちょっかい出すかもしれないし」

「燕姫じゃないのに?」

「まぁ、一応ね」

「分かった。今日翔太に会えて良かった。翔太も気を付けて帰ってね」


朝早くに家を出て、電車と新幹線を乗り継いでやっと着いた知らない街

そして…
今、タツが住んでいる街



旅行をあまりしたこと無い私は、何もかもが珍しく、辺りをキョロキョロ見回すばかり

田舎者丸出しだ……




「鈴」

駅前から動けずにいた私に声が掛かる

知らない声――だけど変わらない。

優しい口調



「――タツ!」


振り返った私の前に立つ人物は、やっぱり知らない―――大人の男性


それでも懐かしくて言葉が出て来ない。

言いたい事が沢山あって、謝りたくて…10年分の思いが、言い表せない



「俺んち行くか。…寮だけど」

苦笑いした表情は昔と同じだった。


そんな風に思ったけども、車を運転する姿はやっぱり知らない。



車を停めて向かった寮は大きく、そして小綺麗だった


「結構新しいんだと。悪ぃな、此処呼ぶ気じゃなかったから掃除してねぇわ」

「全然気にしないよ」

掃除してないとは言っても綺麗な部屋だ。

汚い部屋なんて昔から見たこと無い


掃除したくないから汚さない。
そんな考え方の持ち主



昔とは全然違う部屋

シンプルな家具で統一され、物は無いんだけど生活感が有る、暖かい部屋


煙草と香水の匂いの入り混じる…

「あんま観察すんなよ」

………残念


「はぁ~。和也から大体の話は聞いた。………思い出したんだな」

「……うん。ごめんね」

「大丈夫なのか?」


やっぱり変わらない。
私を大事にしてくれる。

自分の事より優先して…


「大丈夫だよ。……タツ。今まで本当にごめんなさい。私、タツの事大好きなんだよ。だけど、忘れてて…タツはずっと私を守ってくれてたのに」

「良いんだよ。俺が決めた事だ。鈴が忘れようが、拒否しようがな。…………俺はお前の兄貴だから」


頭を優しく撫でるその手に、私の涙腺は限界だった。

ずっと我慢してたのに。

「今日は泣かないって決めてたのに…」


泣かないなんてレベルじゃない。

もはや号泣となってしまった私を、優しく腕に抱き締めてくれた。

「無理だろ。喫茶店にしなくて正解だったな」

余計な言葉と笑い付きで……


それでも泣き止めれないのが私だから、腕の中に居るしかない。




――――コンコン。

「藤林居るか~入るぞ~」


私の涙を止めたのは意外な声と存在で。

知らない人なんだけど、その行動に。


ノックが聞こえ、声が聞こえ、姿が見えた。
その速さが………


つまりは私は涙を拭く事も、タツの腕から離れる間も無かった


「……藤林が女泣かせてるっ」

「………」

「いや、その前に女を連れ込んでやがるっ」

「………」

「お前も隅に置けないなぁ~。俺にも紹介しろよ」

「………」

「いや、姉ちゃんこっちに来な」

「………」



そろそろ止めた方が良いのに…

タツの変化に気付かないのか、好き放題喋りきった。

そして私へと手を伸ばす


「そろそろ良いっすか?」

丁寧な言葉なのに緊張が走る。

凄みのきいた声を聞くのはいつぶりだろう。


懐かしく、顔がにやけてしまった

「鈴、笑うな」

やっぱりバレてた…


「初めまして。妹の鈴です」

立って挨拶をする。

兄がお世話になってます。
そんな単語は流石に言えないけど…


「お前、妹居たのか。……全然大丈夫。こっち来て遊ぼうよ」

「高校生は犯罪っすよ」

「女子高生っ。いや、確かに若いけど…確かに綺麗より可愛いだ。だけど……いや違う…」


やっと止まった。
ブツブツと怪しいけど…







「タツの周りは面白いね」


仕事の打合せに来たという隣人上司をさっさと追い払い、戻ってきたタツ

私の言葉に苦笑しても、否定はしない。


「こんな遠い所に来ても……タツはまた居場所を作ったんだね」


「…黒龍は変わったか?」

「ううん、全然。あ、倉庫がね、小さくって天井が低くなってたよ」

「そりゃお前がデカくなったんだろ」

そんな事を言って笑い合える。



「黒龍は鈴の味方だ。和也もだ。あいつならいつでも鈴を受け入れる」

うん……カズは変わらなかった。

10年の月日があっても、立場が変わっても。

総長ではなく、カズのままで居てくれた




「鈴にも居場所があんだろ?」

「私は…」

「好きなんだろ?立花蓮司のこと」


え………

意外だった。
タツが蓮司の名前を出した事


真剣な眼差しで。

だけど優しい、あの頃と同じ…