「ありが、と?あれっ私手ぶらで来た………っけ?」

そういえば記憶が無いんだ。


「覚えてない?……玄関で倒れてるって蓮司が連れてきたんだけど…」

うん。やっぱり家に帰り着いたんだよね。
それから……どうしたっけ…


「あ、携帯。ちょっと電話掛けるね」

「熱計ってからね。寝てなくて大丈夫?」

翔太が体温計を渡し、部屋の中を動き回ってる。

樹は翔太と少し言葉を交わし、部屋を出て行ってしまった



「――37度5分。そんな高くないや」

計り終えた体温計を翔太に渡し、替わりに毛布を渡された

複雑そうな顔をしてるけど、こっちの部屋に居ては良いらしい


「電話掛けるね」

受け取った毛布に包まり、携帯を手にした。





『――はい。美浦で御座います』

「叔母さんお久しぶりです。鈴です」

『あら鈴ちゃん、久しぶりね』


私が電話を掛けたのは叔母さん。

私の親代わりで、麻美さんの母親

風邪を引いた事、学校を早退した事を伝える。学校から連絡があっても困らない程度に


叔母さん達は田舎というか、山奥というか…直ぐに来れないような場所に住んでて……だからこそ一人暮らしを許して貰えた


『大丈夫なの?』

「はい」

『鈴ちゃんも達也君も全然連絡して来ないから。……2人は連絡取ってるのよね?』

「…今度会いに行く予定です」

『そう。なら良かったわ』


お大事に。そう言われて切れた電話


顔を上げると、此方を見ていた翔太と目があった


「…翔太?」

何故か悲しそうな顔をしてる。

辛そうな、泣きそうな…そんな表情


「今の電話……誰?」

フッと笑ってから、向かいのソファーに座る。

パソコンは開いてないから、話し相手になってくれるのかも。


「親戚の叔母さん。私の親代わりなの」

「そう……」

「…翔太は優しいね」

「俺が?意外な事言うね」

「うん。優しいよ…」

「それはどうも。………さ、熱あるんだし休みなよ。それとも奥の部屋行く?」


強制的に打ち切られた感がある。

でも奥の部屋に独りは嫌

大人しく、毛布に顔を埋めた


次の日

またしても喉の渇きで目覚めた私。

その横には蓮司が寝てた。


いつもの鋭い目が隠れているために、真っ直ぐな鼻筋や形の良い薄い唇が際立つ。

何よりも、鮮やかな赤髪

『赤』ではなく、真紅でもなく臙脂でもない。
もっと――――



「熱下がったのかよ」

「あ、おはよう蓮司」

「熱は」

「…下がってる感じ。水飲んでくるね」

挨拶を返す気無い蓮司に、仕方なく話を進める。

とりあえず水が欲しい。

ベッドから降りて隣の部屋へ…


…………ん。隣?ベッド?


「私…。……ぁ、あの」

「何だよ」

「………ご迷惑かけました」

とりあえず謝ろう。


こっちの部屋に来た記憶も、ベッドで寝た記憶も無い。

更には蓮司がアジトまで連れてきてくれたって言ってたし…


「………」

また返事を返す気が無いらしい。

私の横を通り、先に部屋を出て行った




「鈴ちゃんおはよ。熱はどう?」

いつもの部屋には皆居た。


前に訊いた事がある。

此処には皆よく泊まるんだと。
理由は飲み明かすとか何とかで、そこは聞かなかった事にした……


翔太は質問に、ちゃっかり体温計も渡してきた


仕方無く、体温を計る。

上げ膳据え膳で申し訳ないけど…

蓮司が水の入ったコップを持ってきてくれたのはビックリした



「37度。下がってる」

「鈴ちゃん平熱は?」

「…………36度弱」

「じゃあ下がってないね」

「でも「駄目だよ」

怖い…。

看護士さんなんてもんじゃない。

優しいけど怖い、お兄さんみたい。

正論だから反論も出来ないし…



「鈴、今日何かあんのか?必要な物あったら買ってこさせるぞ?」

何かある……そうじゃない。

アルバムを探したかった。


あれ?
でも春に整理した時には無かった……いや、今の家に来て一度も見てない。


じゃあ…どこにあるの?


「鈴っ!」

「……風邪と云うより知恵熱みたいだね。今日は学校休んで此処に居てね」


皆して私を見てた……

知恵熱…あり得るかも。
色々と思い出して、考え過ぎた


明日まで行けば連休になる。

今日は言うとおりに休むのが妥当かもしれない


「…私の携帯、どこにある?」

「どこに掛ける気だ?」

「学校。電話させてね」



学校は何事なく休めた。

まぁ、叔母さんにも電話してたから問題になる筈もないけど…


こういう時、普段の生活態度が物を言う。
真面目に過ごせば信憑性も多少は上がる…


とはいえ、熱もだいぶ下がった今は…寝れない。

昨日寝過ぎたせいもあり、とにかく眠くない。

どうしよっか………


勉強……は馬鹿らしい。

アルバム探し……は休んだ意味が無い。

ベッドの上でひたすら考えるが、答えは出ない。



仕方無く。
…でもないけど、誰も居ない隣の部屋に移動する。


「…蓮司。……学校は?」

誰も居ないと思ってた、静かな部屋の中には蓮司が居た。

いつものように、いつもの席で

「……別に。……寝てなくて平気なんかよ」

目だけで私を見て、訊いてくる。


「昨日寝過ぎたから寝れなくって……話、しちゃ駄目?」


私もいつもの席に座る。

蓮司の右隣にあるソファー


蓮司は読んでいた雑誌をテーブルに投げ、腕を組んだ。


蓮司と話がしたいのは本心で、聞きたい事が沢山ある。

知りたかった。

蓮司と皆の出会いを、蓮司自身の事。
そして、紅燕という暴走族の事を……


だって、知らないから。

知ろうともしてなかった。
また暴走族に関わるなんて思わなかった


それも、黒龍ではない族に――




「話。すんじゃねぇのかよ」

「あ、ごめん。………蓮司の事聞かせて?何で紅燕に入ったの?」




私は今日で此処を去る。


それなのに知りたい。
矛盾するこの気持ちを――何と呼べば良いの?