「私とカズと圭君、同じ小学校なの。元クラスメイトだよ」
「まじかよ~別区域だろ~」
「途中で引越しちゃったけどね。祐も知り合いだったんでしょ。何で?」
「…………ちょっと塾で」
祐らしくない、ポツリと呟く声
聞かれたくない話かな…
確かに、圭君は放課後ほぼ毎日塾に通ってた。
家が大きな病院で、将来は医者になるとか言ってたような……
その圭君と同じ塾なら祐もかなり頭が良いはず。
「鈴ちゃん、話戻すね。」
いつの間にかパソコンを開いてた。
見る気は無いけど、いつもより傾いてるような…
見る気は全く無いけど。
「引越して……今の家?」
「あ~…うん」
ちょっと違うけど、良いよね?
なかなかな複雑さで、説明するのも面倒くさい。
何より私、説明力無いし…
「借り主とは?」
「麻美さん?親戚だよ」
「女?……じゃあ中村ってのは旦那か」
「翔太!それ個人情報」
パソコンを開いた翔太はやっぱり凄い
でも。
麻美さんに迷惑が行く事は無いと思う。
けれども、あの箱の中にどんな情報が入ってるのか怖い
分からないから怖い
無言でカタカタ弄り始めたけど…質問って終わりかな?
翔太が私を放置するのは珍しい
そして、いつになく真剣に画面に見入ってる
「鈴、明日泊まんだろ~」
「「「……は?」」」
「だから~明日の暴走の後泊まってくだろ~?」
「ちょ「祐!暴走は…」
「樹も走れんだろ~」
「……ああ」
「じゃあ問題ねぇし、決行すんだろ~」
中止になるはずだった?
もしかしなくても、私のせいで…
「決行する」
響いたのは蓮司の声
絶対的な総長の発言
「私は「参加だ」
「でも私「黙れ」
「蓮司聞いてっ」
「…俺が決めた。絶対だ」
鋭い眼で睨まれたら何も言えなくなる…
私は此処に居たらいけない。
居るべきじゃなかったんだ…
なのに………どうしよう
遂にきた土曜日、暴走の日
延期されてた誕生日暴走だから、人が多い。とにかく多い
そんな中で顔中が痣だらけ、隠してるが体も傷だらけで動きがぎこちない私は目立つ
敢えて口にする人は居ないし、皆が気遣ってくれた。
まるで腫れ物に触るように―――
私の中ではもう無かった事になった。
もともと未遂だし、気持ち悪さも傷も、このまま時間が経てば消える。
もともと自分をキレイな身体だなんて思ってないし…
でも周りは違う。
どんなに笑ってても、どんなに普通に話してても、気にしてないと言っても……
私が今居るのは2階の部屋
蓮司達と一緒に……ではない。
奥の部屋に1人で
蓮司達は隣、いつもの部屋で今日来た傘下の人達と話してるはず。
さっきはそうだったから…
ベッドに座り、膝を抱えてただ悩む。
どうすれば―――
「鈴、入るぞ」
「……光」
「………」
入って来たは良いが、目も合わせてくれず、静かなまま。
しんみりしてる光なんてらしくない
「あ~~ったく。俺苦手なんだよ。他人の傷に同情っつうの?労りってやつ?」
らしくないと思ったのに一変。
一瞬で元に戻った
「なぁ鈴教えてくれ。どうすりゃ前みたいになる?どうすりゃ普通になんだよ」
普通になるって日本語ある?
そこばかりが気になっていたが、光らしい意見である。
「光……どうしたらいいかな?」
今の気持ちを全て話した。
私が全く落ち込んでない事、どうしたら皆が分かってくれるのかを…
「命令でもすりゃ一発だけど……まぁ嫌だよな」
嫌に決まってる事をニカッと笑いながら言う。
もう普通の、いつもの光だ。
「よし、俺があいつ等に話すわ」
「ほんと?ありがと」
私がするより絶対効果がある。
それに、光と普通に話せる事も…
「そうと決まりゃ下行こうぜ。腹も減ったし」
「あ、ちょっと待って!」
下に行き、あの事件以降始めて純と顔を合わせた。
光は謝ろうとした純を遮り、この計画に一方的に組み入れた
「……でも」
「でもじゃない!」
「ですけど……」
なかなか煮え切らない。
まぁ、普通信じられないよね…
「しっかし女の化粧はマジ恐いよな」
そう、私はファンデーションで傷を隠した
化粧道具が全然無く、厚塗りしただけ。
だけどだいぶ隠せた。
顔のガーゼ類は全て外せたし
恐いって表現は聞き捨てならないけど。
光の効果は絶大だった。
光自身、私に触れるのに抵抗あったみたいだけど、慣れればそうでもない。
兄さん達も、光や純と接する私を見て、オドオドしながらも話に混ざって来た。
そして皆が今回の暴走の派手さとやらを語る頃には、光を中心に私も輪の真ん中に居た。
その手腕に光を盗み見たら、目が合いニヤリと笑った。
その事に笑えた。
やっぱり光はこうでなくちゃ
誰も昨日の事には触れない。
皆が忘れた訳ではない。
そんな事ぐらい、分かってるのに…
また、迷惑をかけた。
また、巻き込んだ。
ちゃんと分かってるのに…
蓮司が決めた事を言い訳にして、また私は居座り続けるんだ…
美味しいものを食べ楽しく喋り、日も暮れきった頃、遂に暴走が始まった。
私は蓮司と車
最初の暴走と同じく、車内で蓮司は全く喋らず、全く私を気にする事もなかった。
暖かい車内から周りのバイクを見て
近くにパトカーのサイレンを感じて
倉庫に着いた時、中は静かだった
パトカーに追いかけられて皆散り散りになっていく
なのに私達が乗ってた車はスピードを変えることなく、道を変えることなく一直線に帰ってこれた。
「私、ここで皆待ってるね」
車を降り、無言のまま階段へ向かう蓮司
その背中に声を掛けた。
勿論返事は無かったけど…