痛々しい顔に、頬の傷に手を伸ばした

いや、伸ばそうとした。


手を動かしただけでビクッとした身体

「………怖いか?」


ただ首を横に振るだけ。

顔は俯いてて目すら合わせない



「………守れなくて悪かった」

また首を横に振るだけ。

自分を強く抱き締めたままで


「鈴……顔上げろよ」




「樹………家、帰りたい」

「…は?」

「お願い。一旦帰ったら駄目かな?」


顔を上げた鈴の言葉はこれ。


落ち込んでたんじゃねぇのかよ


それから少し話をし、鈴が正常だと判断してから鈴の家へ向かった


正常―――


その言葉もおかしいかもしれない。

鈴は俺らが心配してる程落ち込んでない


触られるのが怖いんではなく、汚いと言った

だから洗いたいと……


更に、また俺と一緒に外に出る勇気も有るらしい…

本当に変な女だ。







「えっと…30分で済ませるから。…本当にごめんね」


俺のバイクで鈴の家に向かい、風呂に入るという鈴を外で待つ

何度も上がらせようと言ってきたが…勿論断った



「早く行ってこい」

コイツは男怖くならないのか…?

いつまでも俺を見てる鈴を促した


鈴を見送って1人になり、考えるのはやはりあの事だ。


蛇が言ってた――
鈴が居る限り消えないと。

鈴が言ってた――
巻き込んでごめんと。



巻き込んだのは俺ら紅燕だ。
鈴のその言葉は間違ってる。

なのに必死に謝ってくるんだ…


蛇も、鈴を知ってるようだった。

鈴が抵抗を止めた時、耳元で何かを言った。

何て言ったか聞こえなかったが、「そいつ等」その言葉だけは読み取った。

大方、俺ら――俺と純に危害を加える。
だとすると、鈴の巻き込んだも少しは繋がる


ただ……またって何なんだ?



鈴が戻って来る約30分は早かった。

疑問が疑問を作り、延々と考えるだけで…ただ終わった



―――side*樹。END

倉庫に着いた時、2階には皆が居た。


着せて貰ってたスウェットをちゃんと洗濯乾燥させ、首も腕も足も隠れる私服に着替えて戻ってきた。



それと…覚悟を決めて


「お帰り。居ないからビックリしたよ。怪我……動いて大丈夫?」

うん、確かに皆ビックリした感じ。

それに…
話す翔太が一字一句、一挙一動に気を配ってる感じ


「うん、普通に動けるよ。ごめんね。家に連れてって貰ってたの……えと、スウェットありがと」

普通に接したいけど、普通ってどんなのだっけ?



「……座っとけ」

ぎこちない笑みを浮かべて差し出した紙袋は後ろから奪い取られた。

ついでに背中を押されて


多分だけど…樹なりの気遣い。

背中を押されても、触れられてももう大丈夫

いや、もともと平気だったんだけど…


それでも皆の注目を浴びながらは緊張する

いつもの席―――2人掛けソファーの翔太の隣へ向かう




あ、蓮司を久々に見た気がする。

一度起きた時だから、約半日ぶりだけど……あの時は蓮司らしく無かったから


迷惑、かけたんだよね…

紅燕を巻き込んで、大事にしてしまった…

私は……………此処を出て行くべきなんだ


押された反動のまま歩いていたけど、足が止まった。

座る必要も無い。


軽く目を瞑って顔を上げる

「―――っっ」


上げたのか、上げさせられたのか


「言え!今何を考えた」

目の前には蓮司

顎を思いっ切り掴む手から、厳しい口調から、私を見る目から、蓮司の怒りが伝わる


「私は―――」

言え!何て言ってたのに、喋り出した途端に強まった手の力

あまりの痛さに耐えきれず、身を捩って逃げようとする




「止めろ蓮司っ」

私達の間に無理矢理体をねじ込んで来た

おかげで光という壁が出来た


でも、顔を上げたら一触即発
至近距離で睨み合う2人

どうしよう…

「2人共落ち着け」


聞いた事の無い、低く冷たい声

直ぐには誰の声か分からなかった


「鈴ちゃん、とりあえず座って」

一変し、いつもの優しい声

蓮司に目配せしてる雰囲気は冷たいものだけど…




「鈴ちゃん………幾つか質問するね。答えたくないのは答えなくても良いから」


大人しく座った私。
蓮司と光も椅子に座り直し、樹も奥の部屋から戻ってきた

皆の視線が私に集まる


「青蛇……なんだけど。過去に何かあった。…よね?」

体がビクッとしたのが分かった。

分かってる。訊かれるとは思ってた。
ちゃんと覚悟もしてきた。

はっきりと。首を小さく縦に振る


「何があったの?」

今度は横に。


「そうだよね~……青蛇の中で知ってたのは総長だけ?」

え?
総長って、最後のあの男だよね?


全身洗ったのに、また気持ち悪くなってきた。

もう無かった事にしたんだけど…やっぱり私、弱いな…

樹を見たら頷いてくれた。


「私知らないよ。あの男、初対面だったし…」

「……。そっか…」


「鈴ちゃん、周りや知り合いにパソコン詳しい人間居る?」

え?
話…変わった?

詳しそうなのは翔太。後は……

「学校の先生、とか?」

「知らないか……」


「浦田稔<ウラタ ミノル>、あいつは知り合いじゃねぇの?」

……誰それ?

光に首をかしげてみせると黒龍の副総長だと教えてくれた

名前聞いたのが初。
つまり…

「知り合いじゃないよ」



隣の翔太が少し落胆した気がした。


そういえば、嫌だけど…最初みたいに個人情報取れるんじゃないのかな?

しないで欲しいのは確かなんだけど…