2階に辿り着いた俺には絶望が待ってた
服は破れ、全身に痣を作り全く動かない鈴
不覚にも扉の前で固まってしまった…
「寝てるだけだ。………悪い蓮司」
「すみません、蓮司さん」
声が掛かるまで気付かなかった。
鈴の少し奥に居た樹と純。2人も怪我が酷い。
アジトに戻るのが先だ
怪我をしてる2人はそれぞれ肩を借り、鈴は俺が抱き上げ、階下に戻り外へ
………出ようとした
「青蛇は潰れねぇぜ!その女が居る限りなあ」
俺に負け、押さえられた状態で笑ってやがる
鈴が居る限り、か。
静かに男に歩み寄る。
生憎、俺は今機嫌が悪いんだよ。
「それ以上喋ってみろ。てめぇ、殺すぞ」
募る激しい苛立ち。
その衝動を抑えたのは腕に抱く鈴の存在
治まらない怒りを何とか抑え、また歩き出す
「お前がその女を――っぐふぅ」
鈍い音と声。
振り返った先には再び地面に倒れた男と光の姿
「悪ぃな蓮司。……聞きたくねぇわ」
それには応えずにまた歩き出す。
もぅ、大丈夫だ。
帰ろう。紅燕へ―――
目が覚めた時、まず目に入ったのは綺麗な赤色
「……蓮司?」
どうしてそんな悲しそうな顔してるんだろ?
「悪かったな。遅くなって…………怪我、痛むか?」
伸びた手が優しく頬に触れる
殴られた時の、傷
触れられた手に、ピリピリする痛みでやっと思い出した。
「蓮司。……ここ、は?」
「アジト…紅燕の」
重い体を動かす気になれず、目だけで辺りを見渡した。
天井に壁、ベッドにカーテンと全て見覚えある
確かにアジトだ。
2階の、いつもの部屋の奥にある小部屋
カーテンの先は明るみ始めの空
多分、金曜日の朝だろう
助かった、んだよね?
騒がしくなった倉庫に出て行った男達。
最後に蓮司の声が聞いたような――
「もう、大丈夫だ」
再び私の頬に触れながら優しく、力強く応えてくれる。
―――紅燕3代目総長
嬉しくて、ホッとして…
色々な感情がごっちゃになって言葉が出て来ない
涙だけが溢れる
「鈴……」
違うよ。
そんな悲しそうな顔しないで
怖かった。
痛かった。
でも、何より蓮司に会いたかった
「ありがとっ蓮司」
最高の笑顔で言いたい
多分、無理だけど…
それからまた休ませて貰った。
身体が重くて動くのが億劫だった
蓮司も出て行った部屋の中
思い出すのはさっきの事
なのに―――腕の傷が疼いた
考えを妨害するように。
存在を主張するように。
この傷は、カズと一緒に居るときに負ったもの
私を狙って来た奴ら。
私はカズを巻き込んでしまった
…………あれっ?
何で、私が狙われたの?
『違う!――は今日は来るなって言ったもん。それに迎えに来るなら――さんが来るはずだもん』
目の前には知らない男達
虚勢を張った私の声
繋いだ手の先にはカズが居る
聞こえないよ。お願いもう一回
誰の名前を呼んだの?教えて…
「ず…すず…………鈴!」
名前を呼ばれてる事にも気付かなかった。
目の前には光、祐、翔太の3人
………そういえば、翔太と似てる人も思い出せてないや
ほらっ、いつも優しくって…
迎えに来てくれるならこの人って思えるんだけど
「……誰、だっけ」
思い出せない。
記憶、繋がりそうなのに……
体を起こしながらまた考え出す
重く感じる身体。
痛いけど、それでも何とか動かせる
本当に痛いけど…
「――鈴っ!俺分かるかっ?光だろ。分かるよな」
だけど。
急に伸びてきた手に。
肩を強く掴んだ光の手に………体がビクッとした
「あ…………」
「……………」
ゆっくりと離れていく手に、何とも気まずい雰囲気になった部屋
怖くないのに。
もう大丈夫なのに
「ごめん、光…………えと、分かるよ?光に翔太に祐。頭は打ってないもん。ちゃんと分かるよ」
あれ?何でこんな質問?
「良かった。………今回はごめんね。こんな事になって…」
「大丈夫だよ。……樹と純は?」
「2人は大丈夫だよ。……ちょっと今は出てるけど」
「そっか。良かった」
「ま、鈴も大丈夫だろっ。男怖がる鈴なんて想像出来ねぇし~」
明るく言う祐に部屋の雰囲気が軽くなった
うん。そうだけど…
誉めてる?貶してる?
それでもまだ心配そうな目で見てる先は…
「あれ……服?」
今まで気付かなかったけど、着てるものが制服ではなく、スウェットに替わってる
何も考えずに起き上がったが、よく考えたら危ない。
いや、もう手遅れか……
「着替えさせたのはあかりだからなっ」
慌てて弁解してくる
でも…
今は服の下だけど。
男に舐め回された身体が、殴られた身体が……
汚くて、気持ち悪くて仕方なかった
そんな身体が嫌で、見られたくなくて
少しでも皆の目に写したくなくて、自分に腕を回して隠した
本当に無駄な足掻きなんだけど
side*樹
――――コンコンッ
俺が来た事にすら気付かない4人に、扉を軽く叩いた。
鈴は自分を抱き締め、あいつ等はそれを心配そうに見てる
「樹………腕っ」
自分は今震えてるくせに、俺の心配をしてる…
「問題無いから」
コイツはずっとそうだった。
女なんだ。
隅っこでただただ震えてたって、別に文句は言わない。
自分可愛さに奴らに寝返っても、そんなもんだと俺は納得した。
なのに、コイツは俺らに目が向くのを怖がってた。
自分が殴られる事よりも―――