私の反応に機嫌を良くした男が、体中を舐め回してくる。
ヌメリっとした、ベチャっとした、とにかく気持ち悪い舌が体中を這った
全く抵抗をしなくなった私に笑う男
樹と純が何か叫んでるけど……もぅ、聞きたくない。
あの時も、こんな絶望感だった。
腕の痛みに溢れる血
痛いのは自分の腕。
だけど溢れる血は私の腕じゃない。
目の前に居るカズの右腕
傷に手を伸ばした私の左腕
そこからも溢れる鮮血
痛くて怖くて…
動けない私と違い、カズが傷にハンカチを巻いた。
私の腕に―――
その時だった。
勢い良く開いた扉に飛び込んできた人物
『―――っ』
誰が来たんだっけ……
どうして助かったんだっけ……
思い出せないあの時の記憶
エスカレートしていく行為
太腿辺りを弄っていた男がまた顔を上げ笑った。
…………もうダメだ。
あぁそっか。私、初めてでも無いんだ
初めてがあんな形でも、蓮司で良かった
――――バタン!!!!
完全に諦めた私の耳に届いたのは轟音
木霊するその音の次は人の叫び声と暴れる物音
「一郎さん!紅燕です」
さっきの男が慌ただしく部屋に入ってきた
男達が出て行って、また私達3人が取り残された
「蓮司さん……」
純の小さな呟きすらも聞こえるこの部屋
多分、この部屋以外はそうはいかないだろう…
族同士の喧嘩
蓮司が来た。助かったんだ
思いっ切り泣きたい。
でも今は…
地面へと身体が沈んでいくような感覚に陥った
疲れた。
ちょっと休みたい
こっちを見ていた樹と目が合った
――樹、少し休むね。
もう声も出せなかった
瞼がゆっくりと閉じていく
落ちてゆく意識が最後に捉えた気がした―――
「―――鈴っ!!!」
『―――鈴っ!!!』
side*蓮司
急に決めた暴走
青蛇も影を潜めた今、これ以上あいつらの楽しみを延ばす必要もねぇ
光がずっと準備してるから明後日は予定通り走れるだろう
「はぁ~~疲れた。……………鈴は?」
夕方になり、光が戻ってきての最初の言葉がコレ。
どんだけ鈴を気にしてんだよ…
「鈴ちゃんなら樹と居るはずだよ」
「下か?まぁ誰かに訊きゃわかるか。ちょっと行ってくる」
鈴の鞄はここにある。
倉庫に来たら毎回部屋の隅に置いて行く
真面目な鈴らしい、重てぇ鞄
鈴が居ないのに気付いたのはそれからすぐで。
鈴と樹と純で流しに行ったらしい
だが外はもう暗い。
いつも夕方を過ぎると上にくる鈴
光と走った時は飯を済ませて来た事もあるが……
――違う。
上手く言い表せねぇけど、とにかく嫌な感じだ
「光、樹に掛けろ」
光に指示してから自分は鈴の携帯へ。
呼び出し音が鳴る…
頼む、出ろ!
たまたまバイクに乗ってるだけか?
樹のバイクは音も振動も凄ぇから…
俺は……
また鈴を傷付けるのか…?
携帯からはただ無機質な音が聞こえるだけ
予感が確信に変わる。
「紅燕全員集めろ!鈴達を捜す」
情報は直ぐに集まった。
樹と純のバイクが繁華街に停まってる。
俺らがよく行く店に今日3人が行った。
その帰り―――
「青蛇」
繁華街へ向かう車の中、握った拳に更に力を入れる。
俺に、紅燕に喧嘩売ってきた事を後悔させてやる。
お前らは今日で終わりだ。
この世界から完全に消し去ってやる
「――すぐ行く。―――――蓮司。場所特定出来たぞ」
前に座る翔太はさっきからパソコンと携帯を駆使してる。
繁華街までもう少し
「翔太………今回黒龍は?」
蛇と龍は何らかの関係がある。
今までも蛇が消えた時には龍が姿を現してる。
鈴の幼なじみって奴が…
「今んとこ皆無」
「そうか」
「蓮司……命令なら調べる。けど…恐らく無駄だ」
翔太はまたパソコンに視線を戻して話す
「鈴ちゃんの勘だ。黒龍は無関与だと。…ただ何らかの関係はあるんだ。繋がりが、それが見つけ出せない」
翔太も焦ってやがる……
少し前に聞いた。
鈴の情報が弄られてると…
誰が、何のためにそんな事をした?
翔太より、紅燕より大きな何かが……
「ここだ」
俺達が今居るのは廃屋の前
青蛇のアジトの一つだと情報を掴んだ。
繁華街の隅っこ。
もう、人通りすら滅多に無いこの辺りは恰好の隠れ場所だっただろう
辺りには紅燕の仲間が集まりつつある。
……が、そんなの待てねぇ
「行くぞ」
幹部は樹以外揃ってる
時間が惜しい。
今、この時にも…………
勢い良く扉を開ける
錆び付いた音と振動を立てながら開いた扉――――
扉の先には青蛇の奴ら
数が多い。
こうなる事が分かってやがったな
待ってろ鈴!
直ぐに行くから
―――バキッ
―――ドカッ
手当たり次第に殴った
道を塞げば蹴り倒した
武器なんて出そうもんなら――
「お前が立花蓮司か」
階上から声
顔に笑みを浮かべた、薄気味悪い男
「てめぇが頭か」
正直うんざりしてた。
雑魚のくせして数だけの集まりに
これじゃあ前に進めねぇ
「ああ。総長は俺だ……今回は紅燕が来たか」
「下りてこいよ。俺とタイマン張れ」
今回…何の話だ?
まぁ、今は関係無い。
コイツをやれば全て片付く。一番手っ取り早い