「だってさ、蓮司」

小さな声で翔太が蓮司に話かけてた。

蓮司の機嫌は直ってそう…かな?



「そいや~蓮司、今日そんなピアスしてたかぁ~」

祐の目ってどこに付いてるんだろう?

顔は携帯に向けたまま。
手も高速に動いたまま。

視野が上方向に広い…とか?


「もしかして鈴からかぁ~」

「狡いぞ。俺にはねぇのかよ」

話が私になってた。
光が不満顔を向けてる


そういえば…光って早紀と合うかも。
恋愛じゃなくて友情の方で




「じゃあ鈴の誕生日にすっか」


また自分の世界に入ってた。

私を現実に戻したのは楽しそうな光の声



「何の話?」

「延期になってる暴走の話だろ。鈴の誕生日に走るかって!」

「でも、もう過ぎたよ?」

「は?……いつだよ」

「先月。夏休み中、に…」


そう。私は夏生まれ。
冷房に弱くても、言い方を換えれば暑さに強く、冷房が要らないと言うこと。

そんなに意外だったのかな…

夏美みたいに名前に「夏」って漢字が入ってたらすんなり受け入れられるんだろな




『鈴も6才かぁ。ちっちゃいな~。よし!今日は記念に走るかっ』

豪快に頭を撫でられる。
ほぼ真上から

え?6才……なんで?


『お前が走りたいだけだろ。鈴を夜まで連れ回すな』

別の手がまた頭を撫でてくれる。

優しく、温かい手で



頭上ではまだ会話が続いてる。

話の内容は私


なのに全然聞こえない…



広い倉庫に沢山の人

皆がこっちを見て笑ってる



これも私の、記憶―――?


季節だけが過ぎ、制服が間服から冬服へと変わる頃、事件は起きた。


相変わらず紅燕へと通う毎日


蓮司達もだいぶ落ち着いた頃のある日

延期してた暴走の決行が決まった

今週の土曜日―――
土曜までは今日も入れて後3日しかない。


「急、なんだね」

それでも噂は早く、今日の学校で私は暴走の事を知った。

そして倉庫に着いた途端、その噂が本当だと知った。

蓮司達に聞く前に。
倉庫内の賑わい方で。


「蓮司さんの誕生日暴走ですから。そう延期も出来ないんすよ」

いつものように倉庫の1階

いつものように隣には純


ちょっと違うのは、一緒に居るのが光ではなく樹


前のように自分のバイクを静かに弄り、工具箱を純に渡す。

「終わり?」

「ああ」

「光が居ないと静かだったね」


光は暴走の担当らしく、仕事に追われてるらしい。

私をここまで送り、またバイクを飛ばしてどこかへ行ってしまった


「光さん暴走好きですから。今回も派手なの期待できますよ」

純が戻ってきて教えてくれた


「忙しいのは分かるけど…ここまで来るの、怖かったんだからね!」

本日何度目の話か…

忙しいらしい光はバイクを飛ばした。
以前のように……


バイク恐怖症になったら思いっ切り愚痴ってやる!
慰謝料でもぶんどってやるんだから!


「流して来る。……また後ろ乗るか?」

「乗りたい!」

暫くはならない気もするけど…
というか私には無縁かも。


何でだろ…

懲りないとかじゃなくて…なんか根本的な考え方が違うのかもしれない。

バイクを恐いと思わない、何かの自信がある



「樹さん、俺も良いっすか?」

「ああ」



結局、3人で走る事になった。



いつもの海岸通りを折り返し、今度は繁華街へ夕食を食べに来た。


「やっぱ良いね~バイクって」

「鈴さん、さっきは怖いとか言ってましたよ」

「それは光のバイクだよ。同乗者いたら安全運転しなきゃ」

「暴走の時に比べたら十分安全運転だと思うんすけど」

「比べるものが悪過ぎる」


純と2人での会話

樹はただ静かに少し離れた後ろを歩いていた。


なのに―――


「――純っ!」

初めて聞く、樹の鋭い声


その声で私達に緊張が走る。

純の雰囲気も変わった。


それでも、私には何が起きてるのか全く分からない。



「純、鈴の側に居ろ」

樹が低い声で指示を飛ばした時、やっと私にも理解出来た。


ぞろぞろと集まってくる人――

まともじゃない、ガラの悪い男達

何人居るの―――?


続々と増え続けた男達。
私達は壁を背にし、あっという間に取り囲まれた



「青蛇…………何の用だ」

樹が低く、それでもはっきり問う


怖い。

純の背中が視界の大半を占めるが、それでも気味悪い男達が見える。

ニタニタと笑うその顔――


「幹部と姫が揃う……用件なんて一つしか無ぇだろ」


嫌だ!その先を聞きたく無い。
やめて――――


「潰すんだよ、紅燕を」
『潰すんだよ、黒龍を』


2つの声が重なった。


無情にも発せられた言葉

一番前に居る男
一番不気味な男




「紅燕は潰れない」


また低く、はっきりと発せられた言葉

不思議と私を落ち着かせる、絶対的な自信

恐怖心は残ってる。
でも大丈夫だよね?

―――――――蓮司っ