「何度も注意するようだけど……鈴ちゃんの方に危害が行くかもしれない。だから一人で行動はしないようにして」

「うん。分かった」


「脅されても絶対着いて行くなよな」

前、圭君に脅された時の事だ

でも……。
今、冷静に考えても私は同じ行動を取ると思う。

巻き込んではいけない。
私のせいで人が傷付くなんて絶対駄目



「鈴!絶対着いて行くなよ。俺が居りゃどうにでもしてやる!」

返事が出来ない私に光が口調を強めて言う。


嘘でも返事をしとくべきなのか―――


電灯すらついてない薄暗い場所

広い部屋に高い天井
唯一ある窓から優しい、明るい月の光が入ってくる

私を抱きしめる自分の腕と、その腕ごと覆い隠すように回るもう一つの腕


私達に近寄ってくる足音


上げた顔に映るのは、大きな男と……真上から迫る―――





「嫌!!」

目の前にきた手を拒んだ

腕は何の障害もなく動いてくれた



「………鈴?」

蓮司の声に瞑った目を開ける


目の前には蓮司の顔

目に映るのはいつもの部屋

天井には明々と灯る電灯


いつもの部屋にいつものメンバー


…………何で?


「大丈夫か?」

「…ごめん……寝ぼけてた、のかな」


蓮司の手がまた伸びてきて、私の顔を包む

温かい。落ち着く…



窓を盗み見してみるが、やっぱり明るい


何で、今思い出すの?


静かに目を閉じ、また開く


「ごめんね、大丈夫だよ。光もごめん。もうあんな事しないから。……信じてるから」




『――ごめんね、カズ』


また学校生活が始まった9月

何か問題が起きてるらしい紅燕内では、見送ると決まった蓮司の誕生日の日でも、いつもと変わらなかった。




「蓮司、ちょっと待って」



いつものように光の迎えで倉庫に来た私は、蓮司に直ぐに渡そうと決めていた。

入れ違いで翔太と出掛けようとしてた蓮司はかなり不機嫌そう


「先行ってる」

たぶん、気を遣ってくれたんだろう。
翔太が出て行き、部屋には蓮司と二人きりになった

「…ごめんね、出掛け間際に。これ渡したくて。誕生日おめでとう」

暴走は延期になっても、蓮司の誕生日は今日。
だから私はこの日に渡したかった


ピアスが入った袋はかなり小さい。
こそっと渡すには最適だったかも


「……俺にだよな?」


袋を差し出すが、蓮司は受け取ろうとしない。

迷惑だったかな……


「サンキュ」

受け取る手と優しい声
そしてカサカサと袋を開ける音

「………ピアス?」

「うん。蓮司に似合いそうって思ったんだけど…」

蓮司をチラリと見上げると、両耳についてる沢山のピアス

その中に混ざっていく渡したばかりの赤いピアス


やっぱ似合う。


小振りなピアスは同色の髪に時々隠れる

それでも、見えた時には光を発さず、強く存在を主張している



「サンキュ。行ってくるな」

私の頬を優しく掠め、待たせてる翔太の元へ去って行った


蓮司達が戻ってきたのは意外と早かった。



そして、いつも通り光達と話をしてた頃に来た来客


「……純、鈴頼むわ」

来た人達を鋭く見て、一緒に話してた光は2階へと向かった。



最初に来た人達から、一定の時間を開け、続々と人が来る様になった。

来る人数は1組みずつ、2人から5人程で多くはないが、それが何人も続いて来てる


「傘下のチームが来てるんすよ」

人が出入りする度に不思議そうに見てた私に純が教えてくれた


「暴走は無くなりましたけど、蓮司さんの誕生日っすからね」


「鈴ちゃん、ちょっと来れる?」

階段から翔太の声がかかった

あれからも飽きずに出入りする人達を見てたらだいぶ日も暮れていた



「今、中に人居るよね?良いの?」

私が見落としてなかったら、今は5人の人達が中に居るはずだ。

「うん。翠虎[スイコ]って言うんだけど、傘下の中でも大きくて信頼が厚いとこなんだ……鈴ちゃんにも会わせとこうと思って」


珍しい。
普段は族絡みの話から私を遠ざけるのに。

今のヘビって件からは特に


「こっち来い」

部屋に入ると蓮司から声がかかり、座っていた人達が立ち上がった。


「鈴、翠虎だ」

蓮司の説明の仕方に呆れた。


対する翠虎の総長は静かに笑って改めて自己紹介してくれた

優しそうな兄さんが―――


………でも。


それどころじゃない。

元々座ってなかった人を見つけたから。
一番端っこには

「………奨ちゃん?」


「「「「「え?」」」」」

沢山の声が重なったがその男の子から目が離せない


「そうだよね?あ、確か基樹さんも翠虎って…」

親友の兄弟。3つ上の基樹[モトキ]さんと、3つ下の奨[ショウ]ちゃん。


翠虎に居るって聞いたこと有ったような、無かったような……




「奨、知り合いか?」

「姉貴の友達です。………お久しぶりです、鈴…さん」

他人行儀な呼び方


返答に納得したのか、また話を再開し、翠虎の人達は席を立つ

まぁ、当然なのかもしれないが、蓮司達が下まで見送りはしない。


「一緒に下まで行ってくる」

「駄目だ」

「え?」

びっくりした。
それぐらいで反対されるとも思ってなかった