「蓮司は?楽しくない?」

「鈴は楽しいんだろ。なら良い」

俺を伺うその問いに答えてやれば、やっと笑った。




ジェットコースターを降りた後から鈴はずっと笑ってた。

光と一緒にはしゃぎ、ありとあらゆる乗り物に乗って回った。



不思議な女だ。


媚びてる訳じゃないのに、俺らの気を引く

警戒してる訳じゃないのに、俺らの変化を敏感に感じ取る


今までのどの女よりも心地良く思える。



売店へ向かうあいつらを無視して鈴の手を引いた。


夏とはいえだいぶ太陽も傾いた。


そんな中向かうのはこの遊園地で一番でかい観覧車




あいつらが邪魔しに来たせいで乗り物殆どを制覇した。


乗ってないもの。
そして時間を稼げるもの…

その程度で決めたはずなのに



「う~~わ~~~」

乗ってすぐ窓に張り付き歓声をあげた。


観覧車が上るよりも更にゆっくりと沈む太陽に鈴は目を向けたまま。

正面に座り、ただ鈴を眺めた。

太陽で赤く染まる鈴を――


鈴の様子がおかしいのには前から気付いてた。

何度かあんな状態の鈴を見た。

ただ一点を見つめる…虚ろな目



一番最初に見たのは…あの時だ。鈴にとっての初暴走

今みたいに光達と話せず、ずっと部屋の隅に居た。

俺も構わず傘下の奴らの話を聞いてたが、ふと見た時…そんな目をしてた。


翔太が話しかけたら直ぐに消え失せた

俺が問い質しても、その目は全く出てこなかった。



今でも時々そんな目をする。

鈴自身も気付いてねぇだろ?


………一体何がそんな目にさせてるんだ?


左腕にかけた上着


何かを隠す大きな絆創膏
それすらも常に隠して――

そこに何があるかは知らねえ。
でも、癖なんだろ?

悲しい目をした後なんかには、必ず触る。

力強く、握り締めてる時もあった…



それが原因か?

時々、"闇"と現実が混ざるんだろう。
感情のままに行動する。



黒龍を庇った時だってそうだった。
感情的に動き、そして謝る


ごめん、なんて言葉が聞きだいんじゃない。


いつも笑ってろよ。

相手が光だろうが、紅燕の奴等だろうが今は構わねぇ

それぐらい見逃してやる

あんな目をしてるぐらいなら…見逃してやるからよ


長い長い夏休み
それも過ぎたらあっという間で、残すところあと数日になった。


蓮司達と遊び出掛ける事が増えた今年の夏休みだが、例年通り夏美とも遊んだ。


そして今日も、毎年恒例の夏美とのお買い物だ。

彼氏の光輝君への誕生日プレゼントを買いに、大型ショッピングセンターへと




「今年も何買うか決めてるの?」


夏美はサバサバした性格で、毎年結構なイメージは出来ている。

だけど、毎年最後が優柔不断になってしまう



「アクセ系にしよっかなって。今年はバイトしたし、いつも身に付けてて欲しいかなって」

「夏美可愛い」

夏美はこの為にバイトしてた。
恋する女の子って何でこんなに可愛いんだろ




ショッピングセンターに着いて、まずは一回り


服に小物、もちろんアクセサリーも全店舗を見てから気に入った店へまた戻る


そこからの夏美が長い。

とにかく長いんだ。


いくつかを手に取って悩んでは別の所へ

かと思えば数分後には置いた物をまた手に取って悩んでる


その間私はただ待つ。


余計な事言って悩ますよりも、最後の最後だけに口を出す。

悩む時間も醍醐味だもんね?


隣のお店をちょっと覗いて来たり、同じ店で別の辺りを見てたり





「蓮司に似合いそう…」

それを見つけたのはそんな時。


小さめな片耳用のピアス

蓮司の髪色と同じ

綺麗な赤。
『赤』なんて表現ではなく、もっと―――鮮やかで深いような


「鈴、何見てんの……ピアス?」


近くには夏美が来てた。
手には3つ………お会計前の商品が


「そのピアス?蓮司様に?」

「うん。似合いそうだなって」

「もうすぐ誕生日でしょ?蓮司様」

そういえば。
…………私、蓮司の誕生日知らない



「まさか知らなかった?」

「……うん」

呆れてる。
まぁ、そりゃそうだよね。普通は聞くだろうし



「はぁ~。私も情報でしか知らないからね。9月の初めらしいよ」

ホントかどうかは自分で確かめなさい。とのお叱り付きで教えてくれた。


「これ買うの?」


誕生日プレゼントかぁ。
全然考えてなかった。

これを付けた蓮司…………やっぱり似合うかも


9月なら今から買っとくのも有りかも。


「うん、買う」

喜んでくれるかな?
付けてくれたら良いな。
でも先ずは誕生日を聞かなきゃ



因みに、夏美は手に持ってた中から小振りのネックレスを選んで買っていた。




こうして終わった買い物。

夏美の彼氏-光輝君-への誕生日プレゼントの買い物編が終わった。









「鈴お願い!作り方教えて!」


そんな突拍子な事を言ってきたのは買い物からの帰り道

「光輝のプレゼントに、お菓子も渡せたらなぁ~って……」

「お菓子?……夏美が?」