恥ずかしい。

はしゃいでた事に見つめられてる事。
それにさっきの早歩きがある。
顔が熱いのが自分でも分かった。

両手で自分の顔をパタパタ仰ぐ。


「上脱ぎゃいいだろ」

蓮司が見つめるのを止めれば多分、大分熱は引くよ?

なんて言える訳もない


お言葉に甘えて。脱いだ上着を軽く畳んで腕にかけた



「蓮司、この遊園地来たことあったの?」

「………ああ」

そりゃそうだよね。出来た当初はかなり有名になったし

「初めてか?」

「うん。だから今日いっぱい乗れて良かった」



そっか。とだけ小さく呟いて今度は蓮司が外を見る

また無言が続く

蓮司と過ごすこの穏やかな時間が心地良い






「行くぞ」


ゆっくり回った観覧車を降りた蓮司はまた歩き出す。

「今度はどこへ?」

返事なんて期待しない。


……のに


「行くんじゃねぇのかよ。売店」

答えてくれた。


蓮司の無視する基準って何なんだろ?


「行きたい」

立ち止まった蓮司に追いつき、横を歩く。



周りからは相変わらず沢山の視線が注がれてて…
それを知りながら、隣に来た。

それが、分かってたから―――




side*蓮司



鈴を誘った。
2人で出掛けるのは初めてで

最近は俺への警戒も感じられないし、俺も傷付けない様に気を付けてる

気を付けてるつもりだ。
最大限は……


なのに、

バイクの後ろに乗せて向かった遊園地

入口前には沢山の女共に囲まれたいつもの面子――紅燕幹部


何で居んだよ。
そう睨んでも無視。全員が無視


こいつ等は……



確かに、だ。
鈴と遊園地に来る事は予想が付く

俺が女慣れしてる祐に訊いた

でも。……だろ?

普通は気遣えよな



「なんで居んだよ」

とりあえず入場した俺ら。
鈴は翔太と並んで前を歩いてる。



「いや~面白そうだし?」

ニヤニヤしながら言う祐は後でシめる。
決定だ。


「ちげぇだろ。………鈴がまたアジトに来なくなったら困るからな」

俺を睨んできやがる。
殺気を込めて。

本気だ。
もしかして光は鈴の事――――。


「しねぇよ」

渡さない。
相手が誰であろうと。
光との睨み合いが続く



「ま、なら良いけどな。どうせなら楽しもうぜ。皆でよ!」

皆を強調してんじゃねぇよ。


俺の舌打ちも虚しく、光が鈴の元へ行く

女を嫌う光が珍しい。
いや初めてか。

鈴に本気なのかよ……


そういや、好みが似てるとか言ってたな

ジェットコースターを見る鈴と光の顔は確かに同じだ。
………餓鬼面




「不機嫌面してると、鈴ちゃんが心配するぞ」

光と入れ替わって翔太が俺の元へ来た


「何でてめぇまで来てんだよ」

「顔」

…………チッ

こうなった翔太は何を言っても無駄だ。
俺と一番付き合いの長い翔太だ

仕方ねぇ。腹括るか


落ち着く為に辺りに視線を向けた。


近くで樹が警戒網を張ってる。

別に俺らも油断してる訳じゃない。
なのに、何かあった時一番早く気付くのはいつも樹だ。


周りに敵は居ない。

うぜぇ女共の視線ばかりだ。
こんな所に来てまで俺らを見て騒ぐ、馬鹿な女共

くだらねぇ………





暫く並んだジェットコースターの長い列で、鈴の変化に気付いた。


光と話をしてても、笑えてねぇ。

ジェットコースターを光と眺めてたさっきまでの顔とは明らかに違う


やっと来た順番

はしゃぐ光に続いて乗り込もうとした鈴を祐が押し退けた。
―――俺に向かって


「ちょっと!危ないじゃん」

祐に向かって吠える鈴を今度は俺が引っ張る。

足がもつれてるのを視界の端で捉えたが、俺が腕を掴んでんだから、問題無い。

そのまま光と祐の後ろに乗り込んだ。







「楽しくねぇのかよ?」



機械が動き出し、上へ上へ昇るなか、鈴が俺を見てた。

「楽しい、よ?」

「そうか」

そんな風には見えねぇけどな…
鈴の顔は相変わらずなまま


「蓮司は?楽しくない?」

「鈴は楽しいんだろ。なら良い」

俺を伺うその問いに答えてやれば、やっと笑った。




ジェットコースターを降りた後から鈴はずっと笑ってた。

光と一緒にはしゃぎ、ありとあらゆる乗り物に乗って回った。



不思議な女だ。


媚びてる訳じゃないのに、俺らの気を引く

警戒してる訳じゃないのに、俺らの変化を敏感に感じ取る


今までのどの女よりも心地良く思える。



売店へ向かうあいつらを無視して鈴の手を引いた。


夏とはいえだいぶ太陽も傾いた。


そんな中向かうのはこの遊園地で一番でかい観覧車




あいつらが邪魔しに来たせいで乗り物殆どを制覇した。


乗ってないもの。
そして時間を稼げるもの…

その程度で決めたはずなのに



「う~~わ~~~」

乗ってすぐ窓に張り付き歓声をあげた。


観覧車が上るよりも更にゆっくりと沈む太陽に鈴は目を向けたまま。

正面に座り、ただ鈴を眺めた。

太陽で赤く染まる鈴を――