「―――カズ駄目っ」
突然だ。
鈴が和也に抱き付いた。
倉庫には再び静寂が訪れる。
「鈴……なんで………」
一番驚いているのは当事者の和也
一番冷静だったのが間近に居た蓮司
蓮司がその隙に鈴の腕を引っ張り、手中に収める。
「てめぇ、どういうつもりだ」
「さあな」
至近距離で睨み合う。
まさに一触即発だ。
「蛇もてめぇ等の仕業か?」
「さあ、な」
俺らも遅れは取らない。
すでに戦闘態勢に入ってる。
「――――戻るぞ」
クルリと振り返り、鈴の肩を抱いて戻ってくる。
和也に背を向けて
「おいおいおい」
いくら何でも無謀な行動だろ。
我が総長ながら呆れるぞ
「――鈴!何で分かった?」
「………」
その声に鈴が足を止めて振り返る。
でも応えない
「分かったんだろ。何でだ?」
「………」
和也は更に言及する。
何が可笑しいのか、口元には笑みを浮かべて
「鈴、龍姫にならないか?そんな奴やめて。こっち来いよ」
「てめぇ。ふざけた事ぬかしてんじゃねぇぞ」
すかさず反応したのは勿論蓮司だ。
俺が喋るより遥かに早く。
そして、遥かに低い声で。
「鈴行くぞ」
俯いて応えない鈴を促して
「鈴!あと一つ。黒龍と紅燕の取り決めは知ってるか?」
俺達の所まで戻ってきた鈴にまた声を掛けてくる
「その条約を破って鈴に手を出してきたんだろうが」
俺が吠えても見向きもしない。
ムカつく野郎だ
「そうか。約束だ、行けよ」
偉そうに言いやがって
それでも鈴が無事に戻ってきたんだ。
こんな所に長居はしねぇ。
鈴を連れて車に乗り込む
―――――のに
「祐~ちょっと待てよ~」
声を掛けるのは圭
「ほい、鞄」
「あ"?」
渡されたのは鈴のスクールバッグ
中身は教科書だろう。とにかく重い
「携帯、中に入れたから」
「ああ」
此処にはもう来ない。
鞄を預かるのは得策だろう。
圭とこうやって話をするのは久々だ
「それと、あんま鈴責めんなよ。今日の件は俺が脅して連れてきた。まぁ賢明な判断だけどな」
「脅し?」
「ああ。簡単に付いて来たぜ。次、注意しとけよ」
次という言葉が引っ掛かるが、内容は聞く
昔のような話し方。
今の圭に敵意も悪意も無い
仲の良かったあの頃の様な――
――――side*祐。END
倉庫に戻ってまず怒られた。
沢山たくさん心配をかけてしまった。
そして、紅燕総勢で動いたらしく、謝っても謝りきれない大迷惑をかけた。
遅れて戻って来た祐が、何故か付いて行った理由を知っていて、その事が更に蓮司達の逆鱗に触れた。
ともあれ。
無事に戻って来れた紅燕の倉庫
そして変わらぬメンバーは頭の切替えが早い。
「黒龍は何をしようとしてんだ?」
私は蓮司から離して貰えずに、皆の話を聞く。
弱めに設定された冷房
さらに、仮眠室にあった長袖のスウェットを制服の上から被って……
「鈴何もされてねぇんだろ?俺らを呼び出した訳でも無いし」
うん。それは私も気になった。
カズと話した内容って『傷』の事だけだよね……
どうして。
なんで。
あの時は咄嗟だった。
挑発してるの分かったから。
右足を意識したの分かったから。
―――跳び蹴り
だからカズに飛び付いた
何で分かったか?
そんなの、分かんないよ
でも、そうでしょ?
「――ず――――鈴?」
呼ばれてる事に気付かなかった。
深く考え込んでしまっていたみたい。
「大丈夫か?」
「ごめんね。大丈夫だよ」
「…………」
顔を覗き込んでくる光
集まっていた視線に笑顔で答える。
「よし!出掛けっか。」
「「「「「は?」」」」」
何がよし!なんだろう。
時々思うが祐って……深いよね。
「辛気臭いんだよ。どっか走り行こ~ぜ」
ああ。そういう事か。
暴走族流の気晴らしかな?
皆も乗り気だ。
蓮司ですらもう立ち上がってる。
「鈴ちゃん、終業式明日だっけ?」
「うん。そだよ」
流石翔太様。
私の学校を良く分かってらっしゃる。
「お、マジで?じゃあ此処にもっと長く居れんだよな」
「うん」
喜んでくれる光が嬉しい。
てか、皆は夜何時まで此処に居るんだろう?
生活必需品は一通り有る。
もしかしたら、誰か泊まってるのかも…
借りてたスウェットを畳みながら思う
「鈴も服置いとけよ。楽だぜ」
「止めろ。行くぞ」
突然腕を引っ張られる。
光との会話を遮って。例の力で
「乗れ」
連れて来られたのは蓮司のバイク
蓮司が示すのはバイクの後部座席
大人しく乗るよ?
バイク好きだし。特に蓮司の後ろは
向かったのは以前、光と樹が走った海沿い。
その途中に海に下りる所が有り、その場所でバイクを止めた。
「大丈夫か?」
「うん」
全然問題ない。
ヘルメットを渡しながら、笑顔を向ける。
辿り着いたのは一番最後
光が前回同様に飛ばしまくり、祐も樹も同じ様な速度を出した。
翔太は前の3人と私達の中間を常に保つ様な走り方。
浜辺に下りた時にはもう皆が遊んでる。
ふと、蓮司が石階段に腰を下ろしたのが見えた。
私もその横に座る。
制服を濡らしたくはなかったし。