「思う事……」
思う事は、無い。
でもカズの意図は分かった。
途端に震え出す身体
カズの右腕。
私の左腕と対になる―――傷
それに気付かせる為に腕を振った事
深く息を吸って落ち着く。
そして、目を真っ直ぐ見る。
「ちゃんと覚えてるよ。約束は守ってる」
2人だけの秘密
この傷の事は、誰にも言わない。
「そっか」
呟く声
カズは私と違って傷を曝け出してる。
10年も経つのにカズの傷はあの頃と変わらない。
私のせいなのに…
見るのが辛い。
だって私の傷は―――
――――ドタン。
突然、もの凄い音がした。
その後は、静寂――
私の思考が付いていけない中、カズ達は静かに立ち上がった。
「鈴、下行こうぜ」
カズに立たされ、肩に手を置かれる。
昔と違って身長差がある。
手を引っ張られてた昔が懐かしい。
『鈴、下行こう――』
誰かに呼ばれた気がして振り返る。
黒龍のアジト。
2階にある部屋。
壁にある旗は黒い龍――
「鈴?早く行かなきゃ喧嘩なるぜ」
圭君のニヤニヤ顔と声で現実に引き戻された。
肩を引くカズに従って倉庫の下へと
下に行くと蓮司達が着ていた。
「蓮司!」
駆け寄ろうとしたらカズに遮られた
何で?約束だよね?
睨み付けるが効果は無い。
カズの視線はずっと蓮司達に向いてる。
「鈴を離せよ」
蓮司の低い声にも無反応で、カズの様子がおかしい。
「カズ?行かせて。そういう約束だよね」
「鈴、やっぱ違うよな。…昔とは違う。欲しいものは力で手に入れる。そういう世界だよな」
やっと分かった。
おかしい理由が。
口元に笑みを浮かべて蓮司達―――蓮司を見据えて
「てめぇ」
蓮司が歩を進める
side*祐
晴れて燕姫となった鈴
あの蓮司の彼女だ。
今まで女をそんな風に見てなかった、あの蓮司がだ。
鈴は良い女だと思う。
自他共に認める女好きの俺でも、そう思える。
何より胸がデカいのが。
けど、そんなの関係なく、それ以上にイイ奴だ。
それは言葉の端々で。行動の端々で分かる。
女を寄せ付けない光や樹が気に入る程に
蓮司が決めた。
そんな理由じゃなく、俺個人として守ってやりてぇ仲間
ま、蓮司が居りゃ大半の事は大丈夫だろうが
何しろ最強だ。
鈴が倉庫に来ない間を思い出す。
暴れる蓮司を宥めるのは大変だった
その日その電話は突然きた。
まぁ、予想出来てりゃウチの策士様が手を打つから突然しか有り得ないんだが。
光が鈴を迎えに飛び出した後
倉庫へ向かう車に乗り込む前
突然、着信を告げた俺の携帯
この時から嫌な予感はしてた。
俺はメール派だから。着信なんて滅多に無い
発信者は―――鈴?
光ならさっき行ったよ。
つか蓮司に電話しろよ。
そんな内容だと思ったりもした……
《もしも~し。俺俺、俺だけどさ。お宅の姫さんこっち預かってっから~》
「………は?」
聞こえてきたのは男の声
誰だ?
姫……を、預かってる?
「てめぇ誰だよ。何が目的だ?」
いきなり低い声を出した俺を蓮司達が振り返る。
ニタニタと笑うような電話の声
こいつ、どこかで……
「―――光?―――居ない?――――分かった。こっちで調べる」
翔太が慌てて電話を切った。
相手は光。
内容はおそらく――
「鈴ちゃんが消えた」
やっぱり、か。
「――で?てめぇの目的は何だよ」
《さあな。早く来いよ此処まで》
「あ"?」
《それまで無事だと良いな。お宅の姫さんが》
「てめぇ」
完全に喧嘩売ってやがる。
誰だ?
この声――たしか……
《――祐?祐、違うかっ》
突然聞こえた鈴の叫び声
そして、突然切れた電話
「今の電話鈴か?」
声が聞こえたんだろう。
「あぁ。黒龍だ」
思い出した。松本圭だ。
話したのは数年ぶりだが、あの口調は間違いない
「此処まで来いとさ」
俺の雰囲気から全員が察した様だ。
話が早くて助かる。
「黒龍倉庫。急げ」
鈴に手出してみろ。
てめぇ等、ぶっ殺すからな
蓮司の指示で車は進む。
各々の思いと伴に
―――――――――
―――――――
黒龍のアジトに着いたのは俺達が最初だった
光にも、紅燕の奴等にも連絡はした。
初代が決めた黒龍との取り決めも、今じゃ無効だ。
手を出してきたのは向こうだ
「いくぞ」
蓮司が声と共に扉を蹴破る。
大事な鈴に手を出されちゃ冷静では居られないんだろう。
蓮司によって吹き飛んだドア
轟音が止んだ奥に黒龍
俺達を見て直ぐに敵意を見せるが、おかしい。
まず、数が少なすぎる。
俺らを誘導しといてこれだけか?
そして、その態度は明らかに
「―――止めろ」
静寂を破ったのは上からの声。
端にある階段から鈴を連れて下りてくる男―――総長の妹尾和也
その後ろには圭も居る。
あのニタニタ顔のままで
「蓮司!」
階段を下りた鈴が笑顔で蓮司に近付こうとするが、和也に遮られた。
見た所、乱暴された感じは無い事にホッとする。
そういや、幼なじみとか言ってたな
鈴の顔が曇った。
そりゃあ、彼氏と幼なじみが対峙してりゃあいい気はしないだろう。
「鈴を離せよ」
蓮司は鈴に。和也に近寄って行く