「ああ」
たまらず聞いた私に答えたのは樹さん。
納得して満足そうで機嫌が良いみたい。
「たまには弄れよな~此処ノーマルだろ」
「あ、やっぱ音変わってないの?良かったぁ。この音が似合うもん」
「「――――は?」」
あれ?固まっちゃった。
私の個人趣向だもんね。
樹さん達の好みに口出ししちゃ駄目だった。
「鈴もかよ……こんだけデカいんだからさ、もっと消音んとこ「あ、やっぱ大きいんだ。このバイク」
「はぁ。……ホント天然だよな」
力無く呟いた光の言葉で樹さんの改造?は幕を閉じた。
樹さんが工具を片し終え、純に渡す。
「樹さん、もう上行っちゃうの?」
「樹で良い」
「え………樹?」
なんか照れる。
呼び方なんて気にしてなかったから皆を勝手に呼んでた。
「ああ。蓮司帰るまで流してくる」
「走るの?」
「ああ。……乗るか?」
樹からの思わぬお誘い。
行きたい!
でも駄目だよね。
バイクの調子見るために走るんだろうし
静かに首を横に振る
「じゃあ、俺の後ろ乗れよ」
「光も行くの?」
「ああ」
「乗りたい!飛ばさないでね」
釘をさす事は忘れない。
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――――――――
――――――
倉庫に帰り着いた時にはかなりの時間が過ぎてた
どこかの海岸沿いの道を走り、引き返して来た。
真夏のこの季節には快適なコース
結局私は樹の後ろにも乗った。
だって
「光飛ばしすぎ!」
海沿いと言えば聞こえが良い。が、片側は海へ落ちる崖だ。
とにかく怖くて怖くて。
途中から樹の後ろに乗せて貰った。
そして帰り付いた只今が口論真っ最中……
「転けやしねぇよ」
「そんなの分かんないじゃん。私がしがみ付いたらバランス崩すでしょ」
「んな事しねぇだろ」
ニヤニヤとニマニマと笑いながら言うのが癪にさわる
「鈴ちゃん、お帰り」
「翔太。蓮司も、お帰り」
「走ってきたの?」
「うん。夏にバイクって良いね」
光への愚痴も苛立ちも忘れる程に翔太には癒される。
時々怖いけど。
………時々ね。
「時間、まだ大丈夫?」
「そろそろ帰りたいかも」
ご飯まで食べて来た私達
明日も学校だし帰りたいのは本音
「送る」
突然声をかけて立ち上がる蓮司。
バイクの鍵を手にして
「あれ?バイク?」
「ああ」
蓮司のバイクは珍しい
「鈴じゃあな~明日も迎え行っから」
明日の迎えも光らしい。
蓮司の顔を見ても無反応
光達に手を振ってから部屋を出た
それからの迎えはまた毎日光が来てくれた。
平日日中の公道は飛ばす速度に限度がある。
だから乗れるのかも。
あの恐怖心を忘れて―――
でも今日の校門前にお迎えは無い
校門辺りでお迎えを待つ私を残して他の生徒達は帰って行く
ただ私達の学校が早く終わっただけ。それも急に
それでもあと30分もすれば平常通りの時間になる。
だから今日は私が光を待つ
つもりだった。
なのに――――
「藤林鈴だな。乗れ」
現れたのはまた黒い車
降りてきたのはまた黒龍
「悪いが今回は強制だ。乗れ」
「カズ……」
遅れて後部座席から届いた声と姿
車だし、居るとは思った。
でもここで私が乗ったら―――
「グズグズしてると荒木光が来るぞ。独りでな」
何が言いたいの?
ニヤニヤと笑いながら言う男を睨み付ける
「別に実力行使しても良いんだぜ」
実力行使―――
光はいつも一人で迎えに来てくれる。
今居る黒龍は4人。
たぶん幹部か、カズが選んだ精鋭
卑怯
それでも、絶対的な脅し文句
付いて行くしかない。
カズに続いて大人しく車に乗る。
隣には例の男―――
「冗談だろ。相変わらず冗談通じねぇよなぁ鈴は」
隣に座った男が声をかける。
相変わらず?
しかも、鈴って呼び捨て――
「………………圭君?」
目しか見てなかったから気付かなかった。
懐かしく、見覚えある顔立ち
髪を白銀に染め上げた今でも昔の面影が残ってる。
「当たり。久しぶりだな」
松本圭<マツモトケイ>
私とカズのクラスメイトだった。
カズと仲が良く、カズといつも一緒に居た私をよくからかってきた。
「圭君も黒龍だったんだ」
可愛さの無くなった今の姿に君付けするのも可笑しいが、昔の馴染みだろう。
「圭は覚えてんだな」
圭は?
カズの事もちゃんと覚えてた。
数年を―――約10年を離れてたら幼なじみでも何を考えてるのかが分からなくなってしまう。
「………カズ?」
「話は後でな。もう着くから。黒龍のアジトに」
黒龍のアジト
私はそんな所に行って良いの?
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―――――
程なくして着いたそこは、思ってたよりも小綺麗な場所で、思ってたよりも小さめな場所。
「カズ。連絡させて」
ジロジロと見てくる黒龍のメンバーに構わず素通りし、2階へ連れて来られた。
そこでまず、圭君に携帯を取られた。
重たい鞄と一緒に
絶対に心配してる。
以前、優希と会った時の心配する姿を思い出す
関わるな。
その約束を私は何度破るんだろ―――
「連絡はこっちでする。そんな警戒すんなよ。話をするだけだ。迎えが来れば直ぐ帰すからよ」
「蓮司達に手を出さない?」
「出さねぇよ」
軽く答えるが嘘では無い。
カズの嘘ぐらい、目を見れば分かる。
たぶん、それは今でも
「話って?」
話を早く終わらせて、自力で帰る。
蓮司達が此処に来るにはリスクがある。
此処からなら駅まで歩ける距離だ。
一人でも戻れる。