気付くのが遅かった。
もう口に啣えてる
「止めろ。吸うな」
「え?」
突然低い声を出す俺に動きを止める3人と鈴。
まぁ、そりゃそうだろ
「あ、もしかして私?もう平気だよ」
確かに鈴の顔色はだいぶ良くなった。
でもさっきの色を見たから。
真っ白過ぎる、あの顔色を――
「蓮司もさっきから遠慮してたんでしょ。吸っても平気だよ」
「は?お前、煙草苦手じゃねぇのかよ」
「苦手?」
「さっきの顔色」
そこまで言うと明らかに翳る鈴の表情
また他人の心配かよ?
「吸って平気だよ」
まだ固まってる3人を笑顔で促す。
だが、俺が睨んでる限り吸い始める事はない。
「違うの。さっきのは冷房が原因で…。だから本当に平気。吸わせてあげなよ」
笑いながら俺を咎める。
仕方ねぇ。
止めさせてた視線を外してやる
「で?」
冷房が原因なのは分かったが、先を促す。俺には聞く権利あるはずだ。
渋々ながらも先を話し始めた
「私、冷房が苦手なの。さっきみたいに気分悪くなるの。だから長袖をいつも着てるんだけど……ごめんね」
たぶん、さっき気分悪くなった事への謝罪だろう。
でも―――
「別に謝る事じゃねぇだろ」
気をつけないとな。
こんな事にまで鈴は謝ってくる。
落ち込み、悩むんだろうな
ありがと。
小さく呟く鈴に
明日はちゃんと防寒して来る。
笑って意気込む鈴に
思えば俺に笑いかけた事なんて今まで無かった。
俺に向けられた笑顔は何より幸せ
―――――だった。
俺がホントの幸せを手に入れれるのは
まだまだ、先の事だった。
蓮司の告白は嬉しかった。
ホントに嬉しかった。
私は蓮司のこと――
好き。
でも、好きじゃない。
好きが分からない。
この気持ちが分からない。
好きって何だろう
恋愛って何だろう
それでも彼女になったのは、この気持ちをしりたいから。
失いたく無い居場所
失いたく無いこの思い
自分が決めたこと。
自分がした返事
蓮司の言葉を逃げ道にはしたくない。
蓮司を好きになりたい
素直にそう思えたから
その後から送り迎えをしてくれた蓮司
家の前まで。
傷付けない。その言葉と気持ちがなんだかくすぐったい。
優しい蓮司がなんだか可笑しい。
「ありがと」
送って貰った家の前。
明日が月曜だからまだまだ時間は早い。
「明日……迎え行けねぇ」
「そうなの?」
「ああ。………光に迎え頼むから、倉庫には来い」
「分かった。ちゃんと行くよ」
正直、蓮司が学校に迎えに来ると怖い。
校門に人垣ができそうで…
その中心に声かけるなんて度胸、私にはまだ無いから。
次の日、放課後迎えに来たのはやっぱり光だった
まぁ当然か。
光のバイクで倉庫へ行く。
純を見付けて、また下でバイクを弄る兄さん達を間近で見せてもらう。
「鞄置いて来るね」
「俺行きましょうか?」
「その真っ黒い手で触る気?大丈夫だって」
暴走の後に気分悪くしてから皆が過保護になった。
蓮司に説明した時から広まったらしい。
それは下の人達だけじゃない。
蓮司をはじめ、光達までもが。
だから極力、2階から逃げる。
皆して気を遣いすぎ…
純を軽く睨んでたから上へ向かった
「あれ?祐だけ?」
2階の部屋には祐しか居なかった
「おっかえり~。蓮司と翔太で出掛けてっから」
「そうなんだ」
だから迎えに来れないって言ってだんだ。
あれ?じゃあ樹さんは?
「私、光と下に居るね」
「おぅ。行ってら~」
手を振りながらも携帯片手。
メール相手に忙しそう
この話の間だけでも何件も受信してる。
一体何人の人とメールしてるんだろ……
いや、何人の女の人と。
だろうね…
下に戻るとまた心配の眼差し。
光と純だけじゃない。
下の人達皆が私が上に行く事に敏感に反応する。
「ただいま」
若干の気まずさはある。でも笑顔で声をかける。
その方が皆安心するでしょ?
「おぅ、おかえり。鈴も見んだろ?こっち来いよ」
何をだろ?
嬉しそうな顔した光の横には、上に居なかった樹さん。
純はどこかに行っちゃったのか、見当たらない。
「何するの?樹さんが下に居るって珍しいね」
「………」
樹さんからは返事が無い。
でも嫌な顔もしてない。
「お待たせしました」
純が戻って来た。
何やら道具をいっぱい持って。
「樹がバイク弄るんだと。だから口出ししてやんの」
答えてくれた光は更に楽しそうに笑みを浮かべてる。
ん?
口出し?
手伝うとかじゃなくて?
確か純が弄ってた時は手も口も出してたような………
そんな考えてる間にもバイクがセットされていく。
樹さんの黒いバイク。
光のよりも大きいけれど長身の樹さんにはよく似合う。
「弄るって…………まさか爆音が出るように~とかじゃないよね?」
樹さんのバイクは静かだ
耳で聞く音、ではなく身体で感じる振動音って感じ