翔太の姿を見た途端、抱き付き縋った
「ごめん、帰る。お願い翔太……帰らせて」
俺の手を振り解いて。
「………分かった。鈴ちゃん行こっか」
「おい翔太!」
こんな状態の鈴を帰せる訳が無い。
翔太に伴われて歩く鈴の手を掴もうとすれば
「蓮司、そうゆう約束だから今日は連れて帰る」
翔太に阻まれ睨まれた。
「鈴、明日も来んだろ」
「………」
光の呼び掛けにも俯いたまま答えない。
扉を開け―――倉庫を去ってゆく
翔太と鈴が去った部屋は静かになった
「一体何したんだよ~」
「………」
何をした?分からない。
あんな顔をさせたいんじゃない。
もう傷付けないと決めた。
なのに………もう
「蓮司が女に逃げられるなんて珍しな~。いや、初だな初!」
「………」
もう…ダメなのか?
「祐煩せ~ぞ」
「何だよ光まで。鈴なら大丈夫だろ~が」
「は?何を根拠に」
「あの策士様なら明日も明後日も連れて来んだろ~が。あ~恐え~」
暗い雰囲気は翔太が戻って来るまで続いた。
翔太から聞いた鈴からの伝言
大丈夫と―――ごめん。
何であんな事言ったんだろう
私は黒龍の何を知ってるの?
でも、あの時はとっさに口から出た。
「黒龍は違う」と
ゆっくり走ってた翔太のバイクがアパートの前で止まった。
「本当は帰したくないからね」
バイクを降りる私に、溜め息混じりで話す
でも。違うよ――
「約束、ありがとう。でも大丈夫だよ。あれ以上居たら、言っちゃいけない事を言いそうだったから…。でももう落ち着いたし」
「…今日はもう外出ないでね。明日も迎え行くから」
私の目をしっかり見てるのは、たぶん真意を探ってる
「分かった。あ、蓮司に伝えて欲しいの―――――――」
次の日は土曜日。暴走の日
只今朝の8時
夏らしい暑く眩しい日差しをしている
翔太は何時に迎えに来るんだろう…
昨日聞き忘れてしまった。
「翔太計算してそうだから…暴走始まる夕方?……か、昼過ぎとかかな?」
勝手に結論づけた
そうと決まれば忙しい。
この天気だ。布団を干したいし、洗濯物も良く乾くだろう。
掃除に洗濯に買い物をし、昼を過ぎた頃に取りこみ始める
翔太のバイクが見えたのはその時
「翔太~すぐ行くから~」
手を振り返してくれた翔太を見てから作業を再開
作業は途中で外は炎天下。急がなきゃ
戸締まりだけはしっかりと。
準備済みの小さな鞄を持ち、慌てて翔太の元へ向かった。
慌ててたからかな?
なんで忘れたんだろうか―――
「よっ鈴。上行こうぜ」
倉庫の入り口には光が居た
満面の笑み
そして特効服姿
「光格好いい」
光の特効服姿は初めてじゃない。
でも以前の暴走は何にも見てなかった。
ワックスで逆立ててる、いつもの柔らかな金髪が勿体無い気がするが、白地金糸の特効服を見事に着こなしてる姿は凄く格好いい。
「何だよ今更」
照れた様に、それでも自慢げに笑う光はやっぱり可愛いかも
「上、颯斗さんも来てるぜ」
嬉しそうに教えてくれる。
いつもふわふわ揺れてる髪が今日は何だか寂しい。
今度柔らかな髪を触らせて。なんて言ったら怒るかな?
「鈴ちゃ~ん。久しぶり~~」
部屋に入るなり、あかりさんに抱きつかれた。
いや、飛びつかれた。かな?
「最近来てなかったの?今日も居ないから心配したんだよ~。あ、そうだ。下行こ!ね!颯斗達難しい話しててつまんないの~行こ~ね!」
いきなり起きた衝撃に。
ついていけない会話に。
強引に引っ張られる腕…
「あ、あかりさん。ちょっと待って下さい」
「ん?どした?」
「あかり。ちょっとぐらい良いだろ」
柔らかく笑う男の人。
この部屋で唯一知らない人だから、この人が颯斗さんだろう
「鈴ちゃん、で良いのかな?初めまして。2代目やってた颯斗です。話はあかりから聞いてたよ」
物腰の柔らかさに驚いた。
翔太以上に暴走族っぽくない。これで総長様だったなんて……
あ。挨拶
「藤林鈴です。初めまして」
「鈴ちゃ~ん、颯斗の見た目に黙らされちゃダメだからね~」
「…え?」
「何でもな~い。さ、下行こ」
ごゆっくり~なんて言いながら気になる発言を残し、扉を閉めてしまった
蓮司の顔も見てないし、昨日の事も謝ってない。
早いうちに話をしたかった
「ごめんね~。私聞いちゃまずい話だったからさ。強引に連れ出しちゃった」
「いえ、大丈夫です」
それは感じてた。ピリピリしたあの部屋の雰囲気を
私も――私こそ、聞いちゃいけない話なんだろう
「そういえばさ、やっぱここ来たの久しぶりでしょ?」
「どうして……」
「珈琲。空だったからさ、冷蔵庫の」
「………」
「どうした?」
「………」
答えられる訳がない。
私には此処に居る理由が無いなんて―――
「………燕姫が嫌になった?」
「え?」
深い溜め息を吐いた後、とんでもない事を訊いてきた
「あたしは嫌になったよ。……変わったでしょ?環境全て。あたし女子高だったからさ~」
あかりさんが遠い目をして話す過去は、私には想像つかない程に恐かった。
私立女子のお嬢様校
「女って陰険じゃん。暴力とか特に悪質でしょ~。なのに颯斗らは分かんないんだもんね。鈴ちゃんは大じょ…う………ぶ…」
私を見たあかりさんが固まってしまった。
どうしたんだろう?
「鈴ちゃん………それ」