日付が変った頃に家に送って貰った。

勿論翔太に



「じゃ、明日校門前に迎え行くから」

「お願いします。じゃあ、おやすみ」

「うん。おやすみ」


挨拶を交わしたのに、翔太は全く動かない。
私が部屋に入るまで見送る気なんだろう。

先に部屋へ帰る。
玄関前で手を振り、部屋の中へ。




楽しかった。
今日は良く眠れそう

急いでお風呂に入って直ぐにベッドに入った



今日はちゃんと、電気を消して

次の日、翔太は下校時間と同時に校門に来た。

もう見事な時間計算だ。
待たせた時間イコール教室から校門までの距離


「お待たせ」

「おかえり。行こっか」








「おかえり、鈴」

紅燕のアジト、いつもの部屋には蓮司も含めて皆居た。

各々が好きな事を自由にしてる静かな空間


私は隣に座った翔太のパソコンの手元を見てた。
これは以前もそう

速く正確に打つ翔太を見習う

検定はもう少し先だが、まだまだ下手な私。見て覚えなきゃ



カタカタカタと規則正しい音


だんだんと眠気が襲ってきた


「す…………ず?」



side*蓮司



光の声に顔をあげると鈴が寝てた。

膝を抱えて。
翔太の隣、男だけのこの部屋で


「奥の部屋に運ぼっか」

無防備過ぎる姿に苛立ちが芽生えた


「連れてく」

翔太の言葉に席を立つ。
こんな状態の鈴に触らせて溜まるか。

ザワザワと募る苛立ち

その感情を抑え、丁寧に
そして優しく。


背中と膝裏に手を入れて持ち上げる

姫だっこ。
人生初のその体験

軽さと、そして前に祐達が言ってた、細くなった体が印象的だった。


静かにベッドに下ろしても、まだ目は覚まさない。


真っ白でキメの細かい肌

あまり化粧をしてないんだろう。
化粧でも香水でも無い。もっと甘く、薄く漂う匂い

綺麗な寝顔には、あの日と違って涙の痕もない


誘われる様にその肌に触れた

サラサラな肌を撫でてると鈴が身じろぎした


「ん………蓮、司?」

起こしてしまった残念感と名前を呼ばれた喜びが入り混じる。



「お前、無防備すぎ」

「え?………あ。寝ちゃってた?」

ごめんと俯くが、こいつはまだ分かってない。


「また襲われるぞ」


「俺もあいつ等も男だぞ。もっと警戒しろ」

「……ごめん」


俺に犯された事を忘れる訳はない。つい、数ヶ月前の出来事だ

それに、この容姿だ。鈴には沢山男は寄って来るだろう。
俺と居るせいで他の奴らも目を付けてる。

黒龍がいい例だ。



「そういや黒龍と会ってたのか」

鈴が此処に来なかった1ヶ月間の行動をさっき聞いた。

「ごめん。約束破って」


約束の問題じゃねぇ。
身の心配してんだ


「幼なじみでも何でもだ。男には警戒しろ。あいつ等も族だぞ。何しでかすか分かんねぇからな」

「…………ぅ」

「は?」


俯いてた鈴が何かを呟いた。
かと思えば今度は顔を上げてはっきりと


「違う。黒龍はそんな族じゃない」


俺を真っ直ぐ見つめる目

強い意志を込めた瞳
―――が、大きく見開かれた


「ごめんっ。ごめん……私」

そのすぐ後には激しい動揺

「ごめん…私、………違うの」

「鈴?落ち着け」

「こんなのっ。こんな……違っ」

「鈴。いいから落ち着け」

暴れてる腕を掴むがそれでもまだ暴れる。


「鈴。…………鈴!」

強く名前を呼ぶとやっと暴れるのを止めた

不安げな表情が俺を見上げる




「蓮司?どうした?」

騒ぎを聞いて翔太達が部屋に駆けつけて来た


翔太の姿を見た途端、抱き付き縋った

「ごめん、帰る。お願い翔太……帰らせて」

俺の手を振り解いて。



「………分かった。鈴ちゃん行こっか」

「おい翔太!」

こんな状態の鈴を帰せる訳が無い。
翔太に伴われて歩く鈴の手を掴もうとすれば

「蓮司、そうゆう約束だから今日は連れて帰る」

翔太に阻まれ睨まれた。




「鈴、明日も来んだろ」

「………」

光の呼び掛けにも俯いたまま答えない。



扉を開け―――倉庫を去ってゆく




翔太と鈴が去った部屋は静かになった





「一体何したんだよ~」

「………」

何をした?分からない。

あんな顔をさせたいんじゃない。
もう傷付けないと決めた。

なのに………もう


「蓮司が女に逃げられるなんて珍しな~。いや、初だな初!」

「………」

もう…ダメなのか?



「祐煩せ~ぞ」

「何だよ光まで。鈴なら大丈夫だろ~が」

「は?何を根拠に」

「あの策士様なら明日も明後日も連れて来んだろ~が。あ~恐え~」





暗い雰囲気は翔太が戻って来るまで続いた。


翔太から聞いた鈴からの伝言

大丈夫と―――ごめん。

何であんな事言ったんだろう

私は黒龍の何を知ってるの?

でも、あの時はとっさに口から出た。
「黒龍は違う」と




ゆっくり走ってた翔太のバイクがアパートの前で止まった。


「本当は帰したくないからね」

バイクを降りる私に、溜め息混じりで話す

でも。違うよ――


「約束、ありがとう。でも大丈夫だよ。あれ以上居たら、言っちゃいけない事を言いそうだったから…。でももう落ち着いたし」

「…今日はもう外出ないでね。明日も迎え行くから」

私の目をしっかり見てるのは、たぶん真意を探ってる

「分かった。あ、蓮司に伝えて欲しいの―――――――」