分かってる。
男だ女だと一番気にしてるのは私

でも。
でも―――


「………結衣、帰るぞ」

沈黙を破り、睨んでた目を逸らして結衣ちゃんに声をかける





前を歩く優希に、結衣ちゃんと肩を並べてついて行く。
メアドの交換と杏ちゃんの話


外に出るとすっかり夕方だった。

日が長い今の時期はまだ部活動が続いてて、下校する生徒は誰も居ない




バイクの所でチラッと私を見てきた

「お前、紅燕は?」

「答えたくない」

「……尾けられてるぞ」

「え?」

「紅燕の奴だな。さっき1人だったのが増えた」

「う…そ。なんで……」

なんで?いつから?


固まる私の頭に手を乗せて、優希達は去って行った




なんで?蓮司………

付けられてると話を聞いてから、周りが気になった。

周りに目を向けると紅燕は近くて遠い存在で…



毎日紅燕の話を聞く。
なのに噂だけ。
姿なんて見えなくて…

みんな、元気にしてるのかな……





噂話は蓮司が多かった。
最近は毎日喧嘩をしてるらしい。


繁華街で暴れている…
他の暴走族と抗争している…
そんな噂ばかり。


正直怖い


初めて会った時のあの音が耳に残る

思いっ切り振り下ろされた鉄パイプ

――存在が見えない恐怖



蓮司と最後に会ってからもう一カ月が経とうてしてる


期末テストが終わり、悲惨な答案が次々と返ってきた。

悲惨な結果は私だけではなく、全体的に下がっているのは紅燕による一種の社会現象かもしれない。



トボトボと歩く帰り道

今日貰った結果の紙を何度眺めても、数字は変わってくれなくて


やっぱり落ち込む結果


夏休みは塾に通って――

なんて選択肢私に無い。
自力で頑張らなきゃいけない。







「鈴ちゃん。おかえり」

「え?……翔太?」


アパートの前には銀のバイク。そして壁に寄りかかった翔太


「帰ってきた所悪いけど、行こっか」

「え?どこ……に?」

「紅燕のアジト」

「なんで!私、行かないよ。行けないもん……」

「蓮司と何かあった?」


優しく尋ねる翔太は何も知らない様子で


優しい声のせいか、翔太の人柄のせいか……

全てを話してしまえたら、翔太に縋り付く事が出来たらどれほど楽なのか……



勿論出来ない。
翔太は紅燕だ。蓮司と共に紅燕を背負ってる人物だ…






「……私は…姫じゃないから」


今言えるのはこれだけ。



side*翔太




鈴ちゃんが姫じゃない事ぐらい知ってた。


正確には「まだ」姫じゃない、なんだけど。

蓮司とは付き合いが長い。
あいつがどんな目で、どんな気持ちで鈴ちゃんを見てたかなんて分かる。

まぁ、本人は―――



「気付いてたよ。だから迎えに来た」

「え?」


これは当人達で解決させるべきだけど………今の蓮司は見るに耐えない


というか。
暴れた後処理は全て俺に回ってくる。

早い話が大迷惑な訳だ


「今日は俺の客人として」

「…翔太の?」

「そ。これなら来れるでしょ」


「でも、私…蓮司には………」

まだ渋る。
蓮司には…会いづらい。かな?


「じゃあさ、とりあえず行こう。んでもう嫌って思ったら合図して。そしたら家へ送るから。俺が」


俯いてた顔をやっと上げた。

そこにあったのは以前のような強い意志を持つ目じゃなかった

けど、俺の目を真っ直ぐ見る目

――――俺の好きな瞳



「どう?来てくれる?」

「うん。……行く」

「良かった。じゃ行こっか」

「あ、待って。鞄だけ置かさせて?今日重くって」

そう言って2階へ駆けていく

小さな鞄で戻って来た鈴ちゃんをバイクの後ろに乗せてアジトへ向かう



「じゃあ、合図は「帰る」の3文字ね。約束はちゃんと守から」

「うん」

「間違えて言わないようにね」

「大丈夫」

やっと漏れた小さな笑み。
アジトの前、バイクを止めて最終確認をする。



鈴ちゃんはまた緊張してる。

初めて連れてきた日を思い出すな……


「あ、ちょっと中入るの待ってね」

「え?」

「すぐだから」


扉を半開きにしたまま自分だけ中に入る


「「「ちわっす、翔太さん」」」

途端に凄い声が飛び交った


このまま鈴ちゃんを入れたら同じ事が起きてしまう。


「よく聞け。今から女を1人入れる。俺の客だからそのつもりで扱え」

俺のを強調する。

一瞬ざわつくが返事を確認してから鈴ちゃんを招き入れる



「「「………っ」」」

今度は固まるが、それも一瞬の事

次に起きたのは歓声

そして挨拶


だけど名前を口にする馬鹿は居ない。


「行こっか」

鈴ちゃんの腰に手を回して誘導する

ほんとに懐かしい



以前と違うのは

鈴ちゃんに「帰る」選択肢が有ること。

長く留まらせるのは俺次第、か…


たまり部屋に入ると蓮司が居ない

…………またか。


また喧嘩だ。
すぐに報告が上がってくるんだろう



「遅かったな。下の騒ぎはお前か?」

部屋には樹と光だけ

鈴ちゃんが来なくなってから気落ちしたまま静かになった光。

そんな光に替わり樹が訊いてくる


「ああ。連れてきた」

回してた手を引き寄せて部屋の中へ入れる


「鈴!!」

途端に反応した


「光。とりあえず鈴ちゃん座ろっか」

光を窘めてから鈴ちゃんを座らせる


無いとは思うが、逃げ出しそうな気がするのはやっぱり以前の記憶からだろう…




―――side*翔太。END