やっぱり綺麗
顔をまじまじと見るけれど、見れば見る程に思う
切れ長の黒い目
鼻筋の通った鼻
薄く形の良い唇
色香すら漂いそうだ。
―――あ、唇のは「……んぅ」
理解するのに時間がかかった
目の前にはあの男。
―――――のドアップ
「……ふぅ…ん……………ぁ」
その距離はゼロ
いや、マイナスだ。
舌が入ってきている。
キス……されてる
そこまでは分かった。
が、どうしていいのか分からない。
掴まれた腕は力強く離れることが出来ない
ブーーブーーブーー
バイブ音にハッとした
「…ん。………離して」
唇が離れた隙に叫んだ。
離れてはくれないが、キスは止んだ
ハァハァと乱れた呼吸を落ち着かせる
が、気持ちは高ぶるばかり。
―――バッッ
高ぶった苛つきを抑えきれずに右腕を振り上げた
――――ドンッ
けど、振り下ろす事なんて出来なかった。
悔しさを隠して
思いっきり睨んで
両手で力いっぱい胸元を押す。
離れた隙に今度こそ―――逃げ出した
side*蓮司
立花蓮司<タチバナレンジ>
3代目紅燕<グエン>総長の俺の名だ。
逃げ去って行く女を見ながら口を触る。
さっきまであの女に触れてた
―――気持ちいい。
そんな感じは分かんねぇ。
でも今までの女とは確実に違う
それはヌメヌメしない、さっきまで触れ合ってた唇からも歴然で
「………ん?切れてたか」
暴れた時の―――
大した事ねぇ奴らだった。
姑息な事しかしねぇただの雑魚
数だけ揃えてきた、ただの雑魚
久々の喧嘩に気が高ぶった
―――あんだけじゃ足りねえ。
気が治まらねぇ時に使えるのが女だ
だから使った。
後ろに居た女を――――
見た時は驚いた
綺麗
服装とかじゃない。
色そのものが闇に浮かび上がる鮮やかな白
肩より長い髪が小さな風に揺れて金色に輝いて
そして敵意も好意も含まない、真っ直ぐな瞳
ブーーブーーブーー
忘れてた。
「……すぐ行く」
内容は分かってる。
一言だけ言い、アジトへと向かい出す
もう一度女の去った方に目を向け、そこで気付いた。
あの女の最後の行動
振り上げた右手、涙を溜めてた目
切れた唇の傷は――――――左側
「あの女………」
―――――――
―――――
―――
ピピ―ピピ―ピッ。
目覚まし時計から始まる普通の朝だ
あれから走って帰り、寝た。
キスされたぐらい何でもない。
―――そう言い聞かせて
なんといっても今日は入学式!
空は晴天、桜は満開――
気分を変えるには絶好の日で。
うん、大丈夫。忘れられそう。
高校といってもあまり変わり無い。
私自身は徒歩で通える距離だし、金持ち校でも何でも無い。
普通の商業高校
商業科目なだけあって、就職率が高い。
卒業後、就職希望の私は第一志望だったこの高校に無事合格出来た。
「う~わ~~」
開口一番がコレの私ってどうなんだろ
学校に着くと流石に人が多かった。
門辺りに張り出されてるクラス表にできた人だかり
その数!数!数!
「鈴~こっち~」
体育館の方から大声を上げ、手を振る子――小学校から友達の夏美<ナツミ>だ。
「鈴同じクラスだよ。こっち」
手を引っ張られる。
おはようぐらい言わせてよ…
そう思いながら今日も元気な夏美と席へ向かった。
「ねぇ!今日ちょっと付き合って」
教室に入り、担任の短い話が終わった頃に夏美に声をかけられた。
「いいよ。どうしたの?」
入学したばかりだ。
積もる話は無いはず…
「近くのね、入学式を見に行きたいの」
「…………は?」
笑顔で言われても意味分かんない。
入学式って見て楽しいの?
「だから、ね。紅燕の入学式に行きたいの。初の制服姿だよ」
「……紅燕って暴走族だよね?入学式とか出る?」
まぁ返事しちゃったし行くのは構わない。
いや、たぶん強制連行になる
「いいの。行くよ!」
………ほらね。お決まりだ。
紅燕の学校は本当に近く、徒歩でも行けた
時間はかかるけど……
うん。時間がかかったのが悪いんだろう。校門にはたくさんの女の人
「なんかバーゲンみたい。夏美競い負けてるよ」
興味無い私は人事
「うん。私行ってくる」
対する夏美は人混みに立ち向かうらしい…私には無理。絶対無理。
「私この辺居るよ。行ってらっしゃい」
だから見送る
「「「「「キャ~~~」」」」」
………………煩い。
紅燕が出てきたんだろう。
女性の黄色い声はとにかく響く。
様々な名前――興味無いから名前は知らない……し、聞き取れないけど、叫んでいる